大学・大学院への留学は、学校数が少ないものの日本からの留学生は増えており(2020年)、語学留学の学校やコースが豊富で人気を集めている。親子留学やシニア留学などのプログラム、制度も充実している。
「幅広さ」が魅力のオーストラリアの教育
オーストラリアの教育制度は、個々の学生の個性や能力を最大限に引き出すことを目的としている。各教育機関ではバラエティーに富んださまざまなプログラムが提供されており、各自の興味や目的に合わせてフレキシブルに学ぶことができるのが大きな特徴だ。こうした教育理念や教育制度の枠組みは、建国の歴史的な背景から、イギリスに共通する部分が多い。
しかしその一方で、大学やVET(Vocational Education and Training)と呼ばれるTAFE(Technical and Further Education)や専門学校などの職業訓練機関で、アカデミックな分野から実践的な専門教育までが幅広く提供されるなど、独自の発展も見せている。特徴のひとつとして、インターネットを使った遠隔教育(distance learning)が盛んなことも挙げられる。
州ごとに異なる初等・中等教育制度
大学を除く各教育機関は、国ではなく各州政府の教育庁が管轄している。そのため、教育制度には州によって若干ばらつきがある。初等・中等教育は基本的に12年間で同じだが、就学年齢は州により異なる。学年制はYear 1からYear 12となっており、Year 6(またはYear 7)までが日本の小学校に当たるprimary schoolで、Year 7(またはYear 8)からが日本の中学・高校に相当するsecondary school で提供される。義務教育期間は、6~15歳(タスマニア州のみ16歳)で、Year 1からYear 10までとなっている。Year 12修了には各州の統一卒業試験が行われ、その結果に応じて大学などの高等教育機関に進学する。
高等教育機関ではさまざまな資格を授与
高等教育は大学やVETで提供される。アカデミックな研究に重点が置かれる大学に対して、公立の職業訓練機関であるTAFEや私立の専門学校では、職業に直結した実践的な専門教育が提供されている。これらの高等教育機関では、学位のほかにcertificateやdiplomaといったさまざまなレベルの資格の取得が可能である。オーストラリア国内で取得できるすべての学位・資格は、AQF(Australian Qualifications Framework)という制度に基づきすべての教育機関で認定されるので、進学や編入がフレキシブルである。
留学生のための教育サービス法 ESOS Act
オーストラリアでは、留学生に適切な教育を提供することを保証する国家法ESOS(Education Services for Overseas Students)Actが制定されている。また、留学生を受け入れる教育機関にはCRICOS(Commonwealth Register of Institutions and Courses for Overseas Students)と呼ばれる「留学生向け教育機関・コースの政府登録制度」への登録が義務づけられている。登録校は、教育内容や設備、サービスの質が保証されているだけでなく、学校閉鎖などの場合の他校への振り替えや、授業料の払い戻しなどの法的義務も課せられているので、万が一のときも安心である。
なお、留学生が学生ビザを取得する場合は、CRICOS登録校発行の入学許可証が必要となるので、学校選びの際には登録校であるかどうかを必ず確認すること。
日本人に人気の留学先、オセアニア
留学業界では、気候や教育システムが似ていることなどからオーストラリアとニュージーランドを「オセアニア」と、ひとまとめにして扱っていることが多い。近年、オセアニアへの留学を希望する日本人の数は増加している。安全な国という地域的な印象と、ほかの英語圏の国に比べると留学費用が抑えられることなどが人気の理由に挙げられる。
多くの留学生は語学学校に留学しており、2019年には約2.1万人の日本人がオーストラリアの語学学校で学んでいる。語学留学生の多いオセアニアでは、語学コースが充実している。多くのコースの中でも、語学習得と同時に、カフェで働くためにバリスタの技術やビジネススキルを修得できるコースは人気が高い。どちらの国も大学の数はあまり多くないものの、昨今は日本の高校卒業後、学士号取得を目指した大学留学への関心が高まっており、オーストラリアの大学で学ぶ日本人留学生数は1904人(2020年)に達している。
ニュージーランドでは近年、中高留学生が増えており、その理由としては、安全・費用面に加え、公立・私立問わず、留学の手続きがスムーズに行えることや、留学生へのサポートが手厚い点などが挙げられる。
オセアニアで人気があるキャリア系「語学+ α」留学
「語学+α」留学の最大のメリットは、言うまでもなく、知識習得や就労体験といった語学以外の経験を得られる点だろう。柔軟な教育制度や実践重視を掲げる海外の学校では実地に即した体験ができ、興味のあることを通して学んだほうが英語の上達も早く、まさに一挙両得といえる。海外で勉強する以上、決して「お手軽」とはいえないが、英語に自信がなく希望分野の専門知識がなくても参加できるコースもある。さらに期間についても通常1年前後、短いもので数週間に設定されているコースが多く、できるだけ早く職場復帰を望む社会人、就職活動を控えた学生、費用を抑えたい人にも適している。
キャリア系「語学+α」留学には、主に①語学学校で英語力がある一定のレベルに達すると提携の専門学校などで専門科目を受講、②専門学校、大学への入学を前提として付属語学学校の英語コースを受講、③専門科目と語学研修がセットになった留学エージェントのプログラムに参加、の3つがあり、中にはインターンシップがカリキュラムに組み込まれているものもある。②は①に比べて入学条件が若干高い場合が多く、英語に自信のない人や初めての留学であれば①のほうが安心だ。だが、最近は専門学校と語学学校の提携が進み、①②の明白な区別は難しい。また、多種多様なコースの中から手間をかけずにベストなものを探したいという留学希望者には、③を利用してもらうとよい。
レベルや目的に応じて、幅広い活用法が見いだせる「語学+α」留学で得た経験値と達成感は、たとえ資格取得に至らなくとも、留学希望者の大きな自信につながるはずである。
親子留学
海外旅行を身近に感じている世代が家庭を持ち、親と呼ばれるようになった昨今。小さな子どもと一緒に「親子留学」をする人が増えている。「学生時代に実現できなかった留学という夢をかなえたい」「興味の幅を広げたい」「子どもに海外体験をさせたい」など、親子留学の動機はさまざまである。その留学先として注目されているのがオーストラリアとニュージーランドの2カ国。英語圏の中では比較的物価が安いうえに、両国とも保護者が子どもの留学に同行できる「ガーディアンビザ制度」を設けていることもポイントである。
親子留学のプログラムには、地域の幼稚園や小学校に期間限定で入学するものや、親子で同じ所にホームステイをして英語の個人レッスンを受けるものなど、さまざまな種類がある。
【Column】ガーディアンビザ
学生ビザ申請者(または保持者)が18歳未満、もしくは何らかの事情でつき添いが必要な場合に申請できる。学生の親族であること、21歳以上で善良な人柄であること、健康や資金の問題がないことなどが申請の条件。就労および3カ月以上の就学禁止、OVHC(海外滞在者用健康保険)への継続加入、申請時に指定した学生との同居などの付帯条件がある。
シニア留学
シニア留学はイギリスなどほかの国でも盛んであるが、環境に恵まれているオーストラリアとニュージーランドは、親子留学同様、じっくり留学生活を満喫したいと考えるシニアにも人気の留学先である。
語学学校が開講しているシニア向けのコースでは、クラスメイトは皆同年代なので、若い学生たちに囲まれて気後れするようなことはない。アジアのほかの国々やヨーロッパからの留学生たちに囲まれた「学生生活」は貴重な体験となる。
英語を学ぶだけでなく、ゴルフやクルージングなどのアウトドアアクティビティーが体験できるもの、ワイナリー巡りやガーデニング教室が組み込まれたものなど、コースはバラエティーに富んでいる。先住民族であるアボリジニやマオリの文化に触れるツアーに参加するのも面白い。
退職者ビザ/永住権
オーストラリアやニュージーランドにシニア留学する際のビザ規定は、通常の留学と変わらないが、オーストラリアには55歳以上の人を対象とした「投資条件付退職者ビザ」がある。このビザでは、4年間の滞在が認められ、以降も更新が可能。2週間のうち40時間までなら就労もできる。申請条件は年齢のほか、配偶者以外に扶養義務のある家族がいないこと、健康であること、資産上の条件をクリアしていることなどで、州政府に債権投資することが義務づけられている。
留学とは少し異なるが、現地での生活が気に入ったなら永住権を取得する方法もある。ただし、近年はどちらの国も申請が殺到しており、取得条件も厳しいため、取得は決して容易ではない。
成績評価(取得学位や資格)/社会的評価
オーストラリアには大学が43校しかなく、そのうち40校はオーストラリアの大学、2校は海外大学、1校は私立の専門大学である。公立校は、1850年創立のThe University of Sydneyが最古の大学で、1960年代以降創立された比較的新しい大学も少なくないが、学校間の教育格差はあまりなく世界的に見ても教育水準が高いといわれている。一方、オーストラリアの大学のほとんどは国公立であり、私立大学は4校のみだが、それぞれに特色ある教育を行っている。
大学の数が少ないオーストラリアでは、職業に直結したTAFEと呼ばれる公立の総合専門学校や私立の専門学校で学ぶ学生の割合が高いため、大学教育ではアカデミックな研究に重点が置かれている。
英国の国際的な大学評価機関QS Quacquarelli Symondsが発表する「世界の大学ランキング 2021」では、オーストラリアの7つの大学がトップ100にランクインしている。この数はアメリカ、イギリスに次いで3番目に多く、オーストラリアの教育水準の高さが世界的に評価されている表れといえる。
【Column】オーストラリアは留学中と卒業後に就労のチャンスが豊富!
オーストラリアに留学する学生ビザ保持者は、学期期間中は2週間に40時間まで、休暇中はフルタイムで、国内のどこでも働くことが可能。また、Temporary Graduate Visa(Post-Study Work stream)により、オーストラリアの高等教育機関で学位取得後、一定期間オーストラリア国内で就労し、実務経験を積むことができる。昨今、留学経験者の採用ニーズの高まりに伴い、オーストラリア国内でも日系の就職セミナーやフェアが開催されており、帰国前から、留学経験を活かした就職活動を行うこともできる。
【Column】オーストラリア留学・国際教育業務トレーニングコース(EATC)
~「オーストラリア留学のプロ」を育成
オーストラリア政府は、オーストラリアの国際教育の質保証の観点から、国際教育事業に携わる留学エージェントや学校関係者が的確かつスムーズな留学業務を展開できるようサポートしていくことが重要と考えている。
オーストラリア政府国際教育機構(AEI)およびオーストラリア政府内務省(DHA)が国内の各主要教育関連団体と協議し、政府認可専門教育機関「International Education Services」が開発した「オーストラリア留学・国際教育業務トレーニングコース(EATC: Education Agent Training Course)」は、オーストラリアの教育や留学システムに関する最新情報およびトレーニングの機会を提供する、24時間アクセス可能の無料オンラインコース。
コース受講後、「フォーマル・アセスメント」を受けて合格すると、コース修了証明書(Statement of Attainment)および、オーストラリア教育資格システム(AQF)公式認可「EATC 認定留学カウンセラー」の資格を取得でき、「オーストラリア留学のプロ」として日々の業務に役立てることができる。
※ EATCの詳細、フォーマル・アセスメント日程は、EATCのウェブサイトで。
http://eatc.com/
「EATC 認定留学カウンセラー」となるメリットとは?
・ コース修了証明書および「EATC 認定留学カウンセラー/ Qualified
Education Agent Counsellor (QEAC)」の資格取得
・認定カウンセラーのコンタクト先をEATC のウェブサイトに掲載
http://eatc.com/
・ オーストラリアの教育制度や留学システムに関する最新の情報や知識を学び、日常の業務に役立てることができる
・ オーストラリアの教育機関がエージェントにQEAC資格を求めることも多い
【Column】グローバル人材育成に力を入れるオーストラリア
昨今、アジアに最も近いグローバル人材育成拠点として、注目されているオーストラリア。オーストラリア貿易投資促進庁では、語学学校の英語プログラムから大学院レベルのMBA/ エグゼクティブプログラムまで、さまざまな対象・内容のプログラムを、海外企業の研修先として紹介している。
●アジアに最も近い英語圏
国民の約3.5人に1人が外国生まれという多民族・多文化国家オーストラリアでは、近年特にアジア系人口が増えている。オーストラリアで学ぶ留学生・研修生の出身国も、約70%がインドや中国、韓国、ベトナム、マレーシア、タイ、インドネシアなどのアジア諸国である。ビジネスにおける最重要地域のひとつであるアジアへの理解を深めることができる環境が整っている。
アジアの人材と文化が息づく「多民族国家」オーストラリアの教育環境は、拡大するアジア市場でのビジネスシーンで求められる、異文化理解能力やコミュニケーション力などのスキルの習得だけでなく、グローバルで通用する「本当の英語力」を身につけるのにも適している。
●ニーズに合わせた研修プログラム
オーストラリアの教育機関は年間を通して研修生を受け入れており、国際化が進むビジネスシーンで求められる能力の育成を目的とする研修プログラムを提供している。クライアント企業のニーズに合った研修を柔軟にカスタマイズできるのが魅力である。
●安心の研修先~世界で最も住みやすい国、オーストラリア
ほかにもオーストラリアには、留学先として安心できる次のような環境が整っている。
・「 世界で最も住みやすい都市ランキング2021」(Economist Intelligence Unit)では、3位にアデレード、6位にパース、8位にメルボルン、10位にブリスベンと4都市もがトップ10に入っている
・ オーストラリアと日本の時差は、わずか+ / -1時間。研修中も日本とメールや電話での連絡が容易にできる。危機管理の面においても大きなメリットとなる
・ オーストラリアの都市は犯罪率が低く、治安がいいだけでなく、医療面においても日本語の通じる病院が多いなど、万が一の際にも安心
・ 小学校から日本語を教えるなど、日本への理解・興味が深い世界有数の親日国