アメリカの教育は、個性を尊重する個人主義と社会で役立つ知識や経験を重視する実学志向が特徴。 多種多様な学校があり、幅広い学問分野と高水準の教育システム、プログラムが用意されている。 また、柔軟な専攻選択や編入制度は留学生にとっても魅力的である。
実学志向の教育が特徴
日本の6-3-3制の教育制度は、第2次世界大戦後にアメリカの教育制度を基に作られたもので、初等・中等・高等教育の3段階に分かれている点など、基本構造がアメリカに似ている。しかし、アメリカには日本の文部科学省のような国家レベルで一元管理する政府機関がなく、教育内容から学校運営に至るまで、その多くは州やさらに細かい行政区分の地域であるカウンティー(郡)などに一任されている。連邦政府の教育行政機関として教育省(Department of Education)があるが、許認可などの権限は有せず教育活動についてアドバイスを行うだけで、強制力は持っていない。
アメリカの教育制度は、州や地域の学区によって異なり、初等・中等教育の区切りやそれぞれの機関の総称にも違いが見られる。区切り方には、6-3-3制、8-4制、4-4-4制、6-6制などがあり、初等教育と中等教育の修学期間の合計が12年間であることから幼稚園(kindergarten)も含めて“K-12(kindergarten through/to 12th-grade)”と呼ばれている。この“K-12”で何を教えるかは、公立校で
あれば学区に一任されており、同じ学年でも学区により学習内容が異なる。
アメリカの教育の特徴は、生きていくうえで必要なことを教える実学志向。生徒一人ひとりの個性を尊重し、資質を伸ばすことを目的とした「個人主義」をモットーとしている。この「個人主義」にはメリットも多いが、「得意科目ばかりを修得しやすい」「資質のある生徒ばかりが学力を伸ばしやすい」など、個人間の学力の差が開き、平均学力の低下を招くデメリットもあるといわれている。
アメリカの成績評価
アメリカの小・中・高校では、授業中にとにかく発言する生徒への評価が高い。授業に積極的に参加していると評価されるからだ。大学の授業でも、ディスカッションのときには、自分の意見を発表したり、質問に答えたり、積極的に発言をする姿勢が成績評価につながる。
また、レポートなどの提出物も論理構成がしっかりできていないとよいスコアがもらえない。アメリカの学生たちは、子どものころから知らず知らずの間に批判的思考(critical thinking)の訓練を積んでいる。そのため、日本人留学生と比べると物事をうのみにせず、自分の頭で、理路整然と考え、まとめ上げることにたけている学生が多い。
ESL について
アメリカは、世界各国から流入した移民たちによって国家が形作られてきた国である。アメリカで英語が圧倒的に普及したのは、建国当初、イギリスからの移民が中心的な役割を担っていたためだといわれている。移民の流れは現在も続き、アメリカ社会にはさまざまな文化や言語が混在している。このためアメリカでの英語教育といった場合には、国語としての教育と、英語を母語としない人に英語
を教える教育の2種類がある。この後者をESL(English as a Second Language)と呼ぶ。EFL(English as a Foreign Language)は英語圏以外の国で英語を教える場合に使われる。
ESLは、大学付属の研修機関、コミュニティーカレッジ、中学・高校のサマースクール、私立の語学学校などさまざまな場所で提供されている。
多くの移民を抱えるアメリカではESLの歴史が古く、多くのノウハウを蓄積しながら実践的な英語習得のための教育に多大な実績を残している。
アメリカの認定制度“accreditation”
教育内容や水準に関する国家レベルの統一基準がないアメリカでは、民間の認定機関accrediting associations がその役割を担っている。
学校のレベルや種類、専門により認定機関は多数あり、例えば大学の場合は6つの地域認定機関(regional accrediting associations)が、それぞれの地域内の大学を認定している。そのほかに専門分野ごとにも認定機関があり、例えばビジネススクールならAssociation of Collegiate Business Schools and Programs、看護学ならNational League for Nursing Accrediting Commission, Inc.といった全国規模、国際規模の機関があり、それぞれの教育課程を認定している。
信頼できる認定機関が認める学校であることが重要である。非認定校が授与する「学位」の多くは、社会的に評価されておらず、ほかの大学に編入しようとしても単位の移行が認められないことがあり、就職の際に有効と見なされないこともあるので注意しよう。
〈地域大学認定機関と管轄州〉
● Middle States Commission on Higher Education
管轄州: Delaware、District of Columbia、Maryland、New Jersey、New York、Pennsylvania
http://www.msche.org/
● Southern Association of Colleges and Schools
管轄州: Alabama、Florida、Georgia、Kentucky、Louisiana、Mississippi、North Carolina、South Carolina、Tennessee、Texas、Virginia
http://www.sacs.org/
● WASC Senior College and University Commission
管轄州: California、Hawaii
http://www.wascsenior.org/
● New England Association of Schools and Colleges
管轄州: Connecticut、Maine、Massachusetts、New Hampshire、Rhode Island、Vermont
http://www.neasc.org/
● Northwest Commission on Colleges and Universities
管轄州: Alaska、Idaho、Montana、Nevada、Oregon、Utah、Washington
http://www.nwccu.org/
● HIGHER LEARNING COMMISSION
管轄州: Arizona、Arkansas、Colorado、Illinois、Indiana、Iowa、Kansas、Michigan、Minnesota、Missouri、Nebraska、New Mexico、North Dakota、Ohio、Oklahoma、South Dakota、West Virginia、Wisconsin、Wyoming
https://www.hlcommission.org/
コミュニティーカレッジと編入制度
アメリカの大学生のおよそ4割が通う2年制大学は全米に1,700校以上ある。中でも主流なのが、地方政府からの資金援助で運営されるコミュニティーカレッジである。
コミュニティーカレッジはもともと、経済的にも地理的にも大学への通学が困難な学生たちに、高等教育を受けるチャンスを与える目的で生まれた。教育内容は4年制大学への進学を目指す編入プログラム、就職に役立つスキルを身につける職業訓練プログラム、市民自由参加の生涯教育プログラムの3つに大別される。若者からシニアまで実に幅広い年代の人たちがさまざまな目的で混在して学んで
いるのが特徴である。
アメリカの大学に留学する場合、比較的多くの人が利用している留学ルートのひとつに「編入プログラム経由」がある。コミュニティーカレッジで一般教養と基礎科目の単位を取り、4年制大学の3年次に編入し、残り2年間で学士号を取得するという方法である。アメリカでは大学で学士号を取得する3人にひとりが、コミュニティーカレッジ出身といわれるほど、地元の学生が多く利用している。学校自体に地域などの助成があることで、4年制大学よりも学費が低いことが理由のひとつと考えられている。
留学生にとっては、入学時に求められるTOEFLスコアが4年制大学より低いのもメリットである。一見遠回りのようであるが、同一州内の4年制大学と編入協定を結んでいるコミュニティーカレッジを賢く選べば、編入後もそこで取得した単位が無駄になることはほとんどない。
コミュニティーカレッジを活用した学士号取得の方法は、英語力や留学資金が足りない留学希望者に有効な情報である。
● リベラルアーツカレッジ
リベラルアーツカレッジは、幅広い教養を総合的に身につけることを主目的とした4年制大学。リベラルアーツカレッジがアメリカに誕生したのは17世紀後半のことで、当初は主に上流階級の子弟を対象に、古典教養を主軸とする教育を行ってきた。イギリスのUniversity of Oxford やUniversity of Cambridge などが伝統的に培ってきた教育思想を色濃く反映したものだった。やがて時代の流れとともにその教育方針は、地域社会やリーダー育成のための全人教育へと変わっていった。現在も、アカデミックな教育と同時に人格教育も行っている。
リベラルアーツカレッジは全米に230校近くある(カーネギー教育振興財団調べ)。総合大学に比べるとはるかに少ないが、その教育理念はアメリカ社会の中で高く評価されており、アイビーリーグに匹敵する名門校もある。多くは共学校だが、女子校も少なくない。中にはマサチューセッツ州のWellesley Collegeのように大学ランキングの上位に登場する優秀な女子校もある。
大学院課程を設けている学校もあるが、基本的には学部課程の教育が主体となっている。1、2年次は寮生活を義務づけている学校もあり、共同生活を通じて協調性や責任感などが養われる。
リベラルアーツカレッジでは、人文科学、社会科学、自然科学、語学、芸術、体育などの幅広い分野にわたる基礎科目をバランスよく履修して総合的な教養を身につける。決まった分野を専門的に学ぶこともできるが、専攻分野を持たずに一般教養での学士号を取得することもできる。専攻分野の科目の割合は、全科目の25~50%が一般的で、この点からも、専門性を重視するのでなく、あくまで
も総合的な教養を身につける教育機関であることがわかる。
授業形態は総合大学と基本的には変わらない。講義中心の授業でセミナーや実験などが組み合わされている。しかし、一般に学生数5,000人以下の学校が多いリベラルアーツカレッジでは、1クラスの人数は平均10~25人と少なく、教授と学生との距離が近い。そのため細やかな指導が望め、小規模校ならではの魅力がある。また、大都市郊外や地方都市、田舎の小さな町など、静かで落ち着いた環境にある学校が多く、それだけ勉強に集中できる。
専攻の柔軟さ
アメリカの大学(学士課程)には、多くの場合、専攻がはっきりと決まっていなくても入学ができ、専攻は2年次の終わりくらいまでに最終決定すればよいことになっている。一般的にアメリカの学部課程では一般教養科目(general education)、専攻科目(major)、選択科目(electives)の3要素でカリキュラムが構成されている。学生は、2年間一般教養の授業を受け、自分が専門的に学びたい分野が何かをその間にじっくり考えることができる。さらに、専攻決定後も、決められた科目や単位を取ってさえいれば、専攻の変更も比較的スムーズにできる。また、複数の専攻を学ぶことも可能である。
一方、大学院課程の場合は、専攻を特定して出願する。ただし、カリキュラムは柔軟で、入学後、さまざまな科目を履修しながら、自分に合った学習・研究テーマを絞り込んでいける場合が多い。
複数の専攻を選択できる特徴的なシステム
学部課程において2つの専攻を同時に選択できるのは、アメリカの大学教育の特徴である。このようなプログラムにはいくつかのパターンがある。詳細は学校ごとに異なるが一般的な例を下記にパターン化した。
①主専攻に副専攻を加えるパターン 主専攻(major)と副専攻(minor)を決め、単位数にして2対1くらいの割合で、それぞれの専攻について学ぶもの。履修期間はひとつの専攻を選んだ場合と同期間である。メジャーマイナーコンビネーション(major / minor combination)と呼ばれることが多い。
②複数の専攻を選ぶパターン
2つの専攻の間であまり比重に差をつけず、どちらの専攻もほぼ同じ程度の必要単位数を取得するもの。取得すべき単位数は、専攻が1つの場合よりも多くなるが、2倍にはならず、履修期間も短縮されるという点が有利である。一般的にはダブル・メジャー(double major)と呼ばれる。学位記は1つで、専攻が併記されることが多い。
③複数の専攻を選び、複数の学位を得るパターン
異なった領域における複数の専攻を、1校または2校(国内と海外の大学の例もある)にまたがって履修し、学位を取得するもの。ダブル・ディグリー(double degree)は、原則的には、異なった分野・専攻において2つの異なった学位を受け取るものである。デュアル・ディグリー(dual degree)は、一般的に、近接の分野・専攻の学位を複数校(国内と海外の大学の例もある)から同時に取得し、2つの学位記を受け取るものである。
ダブル・ディグリーやデュアル・ディグリーは欧米の大学でもしばしばその使い方が混同されていることがある。
④複数の専攻を選び、1つの学位を得る
ジョイント・ディグリー(joint degree)またはコンバインド・ディグリー(Combined degree)と呼ばれるもので、近接の分野・専攻において、複数の大学から2校連名の学位を1つ受け取る。主に大学間での提携や協定に基づいた学位制度となっている。
⑤そのほかのパターン
3-2プログラム:学部課程で3年間学び、大学院課程で2年間学んで学士号と修士号の2つの学位を同時に取得するもの。accelerated dual degreeなどと呼ばれる。
student designed major:既存の専攻にはない新しい分野を学ぶために、指導教官などのアドバイスを受けながら学生が自分でプログラムをデザインするもの。
※ 名称は大学によって異なるので、名称だけでプログラムの内容を判断しないように個々に確認する必要がある。
【Column】高等教育の父、クラーク・カー
カリフォルニア州は他州に先駆けて編入制度を確立したが、その背景には、1960年代の学園紛争がピークのころ、最前線のUniversity of California, Berkeleyで学長を務めたクラーク・カー博士の存在がある。氏は「象牙の塔」という従来の大学のあり方を改め、現在のような実践重視型の高等教育の指針を最初に打ち出した人物として知られる。政府奨学金助成などその功績は数え上げればきりが
ない。大学編入制度も氏の教育改革の一環として始まり、全米に波及しており、氏の遺産の一つといわれる。
名門校の多くが私立である理由
アメリカには4,700校以上の大学がある。そのうち34%が公立大学で、66%が私立大学である(『アメリカ留学公式ハンドブック』2015、アルクより)。学生数で見ると、72%が公立大学(多くが州立大学)で学んでいる。公立大学の学生数が多い理由は、州内に居住しているアメリカ人学生は州外の学生に比べて授業料が安く、入学に関しても地元学生が優先されるためである。そのため州立大学には地元学生が多く通っている。一方、私立大学の授業料は、学校ごとに異なるが、州立に比べると割高である。しかし、州立大学の多くが、何万人もの学生を抱えるマンモス校であるのに対し、私立大学には、学生数わずか1,000人ほどの小規模校もあり、それぞれの大学が個性豊かな教育を行っているため、全米各地から優秀な学生が私立大学に集まってくる傾向もある。
大学ランキングを見ても名門と呼ばれる大学にはUCLA(University of California, Los Angeles) やUC バークレー(University of California, Berkeley)のような公立大学も少しあるが、ランキングの上位はほとんどが私立大学である。
アメリカの有名大学といえば、アメリカの大学で最古といわれている東のHarvard University、西のStanford University が両雄として挙げられるが、最近ではMIT(Massachusetts Institute of Technology)やCalifornia Institute of Technologyなど工学系の総合大学がランキングの上位に入っている。
名門大学群
アメリカの大学はいくつかの有名群に分けられている。下記に代表的なものを紹介する。
● アイビーリーグ(私立校)
アメリカ北東部にある名門大学群。ツタ(アイビー)が絡まった古い校舎が語源となっている。もともとはスポーツの連盟を意味していた。
Harvard University
Princeton University
Yale University
Columbia University
Dartmouth College
Cornell University
University of Pennsylvania
Brown University
● UC 校(公立校)
UCLA、UC, Berkeley など日本でもなじみ深い大学が属しているUC群。2004年にUC, Merced校が誕生し現在UC傘下には10校ある。UCLAの正式名称は、University of California, Los Angeles(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)だが、日本語では、カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校と表記されることがあり、誤解が生じやすい。カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校は、California State University, Los Angelesという別の大学である。UC群とは別にカリフォルニア州立大学群(CSU)もあるので、日本語で表記する場合は十分に注意すること。
University of California, Berkeley
University of California, Davis
University of California, Irvine
University of California, Los Angeles
University of California, Merced
University of California, Riverside
University of California, San Diego
University of California, San Francisco
University of California, Santa Barbara
University of California, Santa Cruz
研究系大学と教育系大学の違い
アメリカの大学には名称にCollegeとつくところと、University とつくところがあり、本来、カレッジはユニバーシティーの「一部」である。例えばHarvard University は学部としてHarvard College を持ち、大学院としてGraduate School of DesignやMedical School、Law Schoolなどを擁しており、全体が
ユニバーシティーとなっている。ところが現実にはUniversityという名称を冠している大学であるにもかかわらず、学部がひとつあるだけというところもある。また、アメリカでは、同じ大学の中で、学部課程中心の教育機関がcollegeと呼ばれ、大学院レベルの専門職系プログラムを中心に提供する機関がschoolの名称を持つ傾向がある。
ユニバーシティーは、歴史的には研究者育成のために設立されたものなので、大学院の研究課程があるのが特徴である。中でも研究系大学(research university)と呼ばれる大学は、学部よりも大学院教育に力を入れている。高度な研究設備を持ち、民間企業とタイアップして最先端の研究を行っているところも珍しくない。Johns Hopkins University は、全米トップレベルの研究系大学の代表格である。
【Column】大学院のgraduate schoolとprofessional schoolの違い
大学院は、伝統的な学問分野から最新の社会事象、最先端のテクノロジーまで、あらゆる教育・研究分野をカバーしている。一般的に扱う分野によって大学院は大きく2つに分けられ、アカデミックな内容の教育や研究を主な目的とするものを学術系大学院(graduate school)、実務家向きの教育を提供するものをプロフェッショナルスクール(professional school)と呼ぶ。
学術系大学院は、研究者養成の志向が強い機関で、人文科学、社会科学、自然科学の全域にわたってさまざまな専攻分野を用意している。
一方のプロフェッショナルスクールは、実学系大学院、専門職系大学院とも呼べるもので、その誕生の歴史から神学(聖職者)、法学(法律家)、医学(医者)の3分野を根幹として、時代とともに、歯学、獣医学、工学、ビジネス、建築学、ジャーナリズムなど、その範囲を広げてきた。日本ではbusiness schoo(l 経営学)、law schoo(l 法学)、medical schoo(l 医学)の3スクールの認知度が特に高い。
同じ4年制大学の中でも、一般教養を中心とした教育が行われているリベラルアーツカレッジのような大学もある。前述の研究系大学に対して教育系大学(teaching university)と呼ばれることもある。
有名なリベラルアーツカレッジは、東部のニューイングランド地区に多く、Amherst College、Swarthmore College、Williams College、Wellesley Collegeなどは、アイビーリーグと並ぶ超一流大学である。
アメリカの4年制大学には、ここで紹介した大学と、リベラルアーツカレッジのほかに、総合大学(comprehensive college)、専門大学(specialized college)などもある。
アメリカの大学院生率は日本の約1.5倍
文部科学省の調査によれば、日本における大学院生の数は約27万人で、これは大学生全体の約10%、10人にひとりにすぎない(平成23年度学校基本調査)。これに対してアメリカでは、専門職学位プログラムを含めると、大学院生の数は約290万人。大学生全体に占める割合も約14%と高く、およそ7人にひとりが大学院生ということになる(Digest of Education Statistics 2010, National Center for Education Statistics 調べ)。アメリカでは、大学院で学ぶことがごく普通のことなのである。
大学院のTA・RA 制度について
大学院生が大学から奨学金や報酬を受ける代わりに、学部の授業を行ったり、教授の手助けをしたりする制度がある。主に授業の助手をするTeaching Assistant と研究の助手をするResearch Assistant の2種類がある。Teaching Assistantは、通称TAと呼ばれ、Research Assistantは、通称RAと呼ばれている。留学生が助手になることも可能だが、当然授業は英語で行うので、事前に授業を行うだけの英語力を測定する試験を実施している大学もある。大学によって基準などは異なる。
● TA
TAは、教授の助手として、学部課程の授業をパートタイムで手伝うもので、博士課程を中心に、リサーチワーク主体のプログラムに在籍中の学生が担当することが多い。アルバイト代わりの収入源としてクローズアップされることが多いが、他人に教えることは、専攻に関する自分自身の理解度のチェックになり、さらにプレゼンテーション能力の向上にもつながるという理由から、多くの大学院プログラムがTAを重要な教育要素として位置づけている。
● RA
TAと対で語られることが多いものに、教授の研究の手伝いをするRAがある。RAは、自然科学系の博士課程に在籍する学生にとって一般的なもので、通常、指導教授を決めた段階で、学生はTAからRAとなる。
RAになると、研究室の一員として、教授が取り組んでいる大きな研究テーマに沿った研究を行うことになる。
社会的評価では学校名よりも学問内容と実力
アメリカ社会においては、学位が高ければ高いほど上級の職に就けるとは限らない。上級学位が評価されるのは、あくまでも「実力」と「経験」がある場合である。経験もないのに学位ばかりが立派な人はアメリカでは“over qualified”(高学位すぎる)という扱いを受けてしまうこともある。日本に置き換えると「高学歴すぎて当社にはもったいない人材」という理由で不採用になってしまうような扱いに相当する。
一般的にアメリカの大学は、「入学するのがやさしく卒業するのが難しい」といわれる。確かに、学業成績や授業への出席や参加態度が不十分な場合には、進級できないこともあるほど厳しいが、だからといって、「卒業するのが難しい」とは言い切れない面もある。アメリカの大学や高等教育機関では転校や編入が容易なため、卒業に必要な単位をためれば大学を卒業することが可能なのである。留学生の場合も単位をためて卒業する方法を採っている学生は多い。コミュニティーカレッジなどで単位をため、有名大学へ編入し、単位を合計して卒業するのも不可能ではない。このような方法で得た卒業も卒業に変わりはない。また、卒業という意識も日本とは多少異なる。アメリカの場合は、学位取得に必要な単位数がそろった時点で学位取得・卒業となるので、年に1回行われる卒業式は、1年分の卒業生を集めて行われているのが一般的である。
大学の種類も卒業の仕方も多種多様なアメリカの場合、学位に関しての評価もさまざまだが、一般的には、どの大学を卒業したかというネームバリューよりも、専攻した学問を主にどの大学でどんなかたちで学んだかが重要となる。
大学院の場合も同様で、例えばMBA(経営学修士号)を取得していても、履修した学校によって評価が異なる。ゼネラルマネジメントに的を絞ったプログラムを提供している大学、経営戦略など具体的にカテゴリー分けをして専門的な内容のプログラムを提供している大学など、大学ごとに特徴があるからである。
アメリカ社会における大学院のステータスは、このようにどこで学んだかが重要であるが、大卒者のおよそ3分の1が大学院へ進学していることを見ても、ヨーロッパ諸国に比べ、社会的位置づけは大衆化の傾向にある。
留学カウンセラーは、学校のネームバリューだけでなく、良質なプログラムを提供している学校の資料を、専攻分野ごとに用意しておくといい。
雇用ニーズで断トツの資格はMBA
今やアメリカだけでなく日本のジョブマーケットにおいても、MBAのニーズは高まっている。金融、電気、IT、サービス、医療などの業界で、MBAホルダー*を積極的に採用する国内企業が目立つ。また、外資系企業の多くでも、英語に堪能であり、かつ経営スキルを身につけているMBAホルダーを日本支社で採用するケースが増えている。特に戦略コンサルティング企業では、経営に参画するパートナーのほとんどがMBAホルダーである。彼らの場合、出身校がひとつのステータスとなるため、Harvard Business School やStanford Graduate School of BusinessといったトップスクールでMBAを取得しているケースが目立つ。
アメリカの雇用に目を向けると、顧客の多くを日本企業に持つ通称「ビッグ4」と呼ばれる大手会計事務所が日本人MBAホルダーを日系企業とのバイパスプレイヤーとして定期採用している。ただし海外企業への就職が広く開かれているわけではない。海外の一般企業への就職を考えた場合、英語を母語とするMBAホルダーに引けを取らないほどの語学力はもちろんのこと、経験やスキルなど個人の能力が卓越していない限り簡単ではない。日本においては、大企業、有名企業への就職以外でいえば、自ら起業したり、ベンチャー企業に管理職や経営陣のひとりとして参加したりしている人もいる。
*MBAホルダー:MBA(Master of Business Administration)プログラムを履修し、MBAの資格を取得している人のこと。