● 北京 Beijing
中華人民共和国の首都。主要国家機関の中枢機能はすべて北京に集中。また北京大学をはじめ高等教育機関が集中しており、文化・科学・教育面でも中心的役割を果たす。気候は典型的な温帯大陸性気候に属し、特に冬は長く乾燥し、寒さも厳しい。春と秋は短く、秋は湿度が低くさわやかである。
春秋戦国時代に燕国(北燕)が都を置き、「燕京」と称した。1115年から1644年にかけては、金、元、そして明と王朝が変遷した。明はまず「北平」と称したが、1403年に「北京」と改名。その後、清王朝を経て現在の中華人民共和国に至っている。2008年には夏季オリンピックが北京で開催され、名実ともに国際都市のひとつとして認められるまでに発展してきている。
北京語は、正確に言うと標準語ではない。児化〈アルカ〉(巻き舌)音の強い、独特の北京なまりである。北京では早くから外国人を対象とした中国語教育が実践・研究されてきたため、概して中国語教育の平均水準が高い地域といえる。また、中国の文化・歴史遺産が多く、語学だけでなく中国を幅広く理解するうえでも、ほかの地域よりも抜きんでている。事実、留学生数は常に全国No.1である。北京大学、清華大学、人民大学などの名門大学が多く、市内の交通、生活、医療面でも常に国際都市を意識して整備されるので、外国人にとっても、安定した生活を送ることができるのが人気の理由だ。
● 上海 Shanghai
四大直轄市のひとつ。人口は国内最大で、中国経済の要である。開放路線を大々的に打ち出している上海では金融面でも優遇策が多く、生産力、市場価値から見ても世界的に重要な都市である。
「上海」という名称が初めて誕生したのは宋代。1840~1842年のアヘン戦争で租界*が造られ、外国の商人が続々と流れ込んだ上海は、西欧文化の吸収と融合を繰り返し、今日に至っている。この土壌で誇り高い上海人気質がはぐくまれた。また、新しい空気を受け入れる包容力と圧倒的なエネルギーは、他地域では感じられないほど。このエネルギーとチャンスを求めてやって来る外国人も多く、留学生にとっても刺激的な街である。復旦大学、上海交通大学などのトップ校が集まっている。生活は非常に便利。気候は亜熱帯季節風型に属し、夏はとても蒸し暑く、雨が多い。
言語は上海語という方言があるが、共通語教育が浸透した現在は上海語に苦心することは少なくなった。だが、上海語を使うことは上海人のプライドでもあり、真に彼らの気持ちを理解するためには上海語は不可欠なことも事実である。
また、2010年には世界博覧会が開催され、世界からの注目度もさらに高まった。
*租界: 治外法権や行政政権がある外国人居留地。租界内に住む中国人に対してのみ中国側が裁判権を持ち、それ以外の外国人に対する裁判権は治外法権として租界設定国にある。
● 大連 Dalian 【遼寧省】
遼東半島の最南端に位置。沿海経済開放区のひとつである。街には帝政ロシア占領時と日本の面影を残すノスタルジックな建物が建ち並ぶ。どこか懐かしい、不思議な雰囲気を持つ街である。19世紀までは小さな漁村であったが、後に東北、華北、華東地区へ通じる港町として栄える。日露戦争後、1905年に日本の支配下となった大連は、日本が南満州鉄道の権利を帝政ロシアより継承したため、満州国への玄関口となる。日本とのかかわりは実に深い。この影響からロシア語や日本語を操る人も多く、中国では珍しく親日的な風土である。北京、上海に比べると格段に安い物価と、地域性、気候のよさから、日系企業も早くから進出。最近では大連の環境と人的資源に注目した大手企業が大規模なコールセンターを設立するなど、経済発展でも脚光を浴びている。アカシアは大連の市花で、5月は街中が花に包まれる。海にも近く、夏の海水浴はもちろん、新鮮な魚介類が日本人にとっては魅力のひとつ。
● 天津 Tianjin
四大直轄市のひとつ。華北平原の東北部に位置し、東は渤海に臨む。春秋戦国時代は小さな漁村にすぎなかったが、隋代に海上輸送と河川輸送の中継点となり、穀倉地帯である江南の食糧を北京へ運ぶための役割を担う。以降、明・清時代を通じ、重要港湾都市として大きく発展した。明の建文元年に燕王朱棣(のちの永楽帝)が「天子の渡った津」の意から天津と命名。第二次アヘン戦争により、9カ国の租界地を持つ植民都市となり、今も当時の各国洋館の名残が街中に点在している。
北京からは約137kmと程近く、現在も渤海湾から北京への入口として、華北における貨物運送の中心的役割を担っている。天津は、北京に近いが物価が安く、港も近いという利便性が最大の魅力。北京という大きな消費市場に隣接しながら、天津の労働コストは北京より低いため、生産拠点を天津に構える日本の大手企業も多い。
天津なまりは独特で、どちらかというと南方方言の影響が見られる。明るい気質の天津市民が話す天津語は反舌音*、声調にも違いがあるが、南方ほどではなく普通話で十分通じる。
*反舌音: 音声学用語。中国語特有の子音zh、ch、sh、rを指す。舌の先を丸めて、前の歯茎よりもっと奥に置いて発音する。
● 広州 Guangzhou 【広東省】
広東省の省都。広東省南部に位置し、香港とマカオに隣接する、華南地区最大の商業都市。別名「羊城」とも呼ばれる。中国の領域に属するのは秦の始皇帝の時代から。隋・唐の時代になると航路を利用した貿易が拡大し、広州は中国南部の貿易港として発展を遂げる。宋の時代以降、シルクロードによる陸上交通路の安全確保が困難になったこともあり、海上貿易港としての広州の役割はさらに拡大、中国最大の貿易港へと発展する。
また広州には出稼ぎ農民が大量に流入、活気ある商業圏のイメージが定着する。半面、治安の悪さや工場の乱立による大気汚染が叫ばれ、生活環境は決していいとはいえない。一方で「食在広州」と格言化されるほど食への追求は深く、目にも美しく洗練された広東料理は世界的にも有名である。
言語は、広州市は広東語圏に属する。普通話と広東語の両方を一度に学習しようと試みる学生にとっても、文法や習慣化した表現の習得に難儀するため、簡単ではない。
● 西安 Xian 【陜西省】
陜西省の省都。中部平原地区に位置し、北には渭水が流れ、南には秦嶺山脈が連なる。西周が初めてここに都を定めたのは紀元前11世紀。以来、11の王朝がこの地を都としてきた。その間約2,000年。街には古都ならではの風格が漂う。古代シルクロードの東の起点としても栄え、漢の時代、絹は砂漠を経由し、はるかローマにまで運ばれ、東西の流通背景から独自の文化圏を形成している。漢の武帝が西方へ使者を送り、玄奨三蔵がインドへ向けて旅立ったのも西安。また日本とのかかわりも深く、阿倍仲麻呂、空海など多くの日本人が遣隋使、遣唐使として足跡を残している。自然環境は乾燥と寒暖の差が激しく、吹きつける黄砂も厳しい。イスラム圏の影響から食文化も独特で、決して豊かとは言えないものの興味深い。観光都市でありながらも市内は庶民的である。言葉は陜西なまりがある。
● 長春 Changchun 【吉林省】
吉林省の省都。長春は日本が1932年に建国した「満州国」の首都(「新京」)として知られる。当時日本軍占領下で、大規模な都市計画が推し進められた。「満州国」時代のはかない栄華の名残のように、当時の建造物が今でも多く残っている。改革後、長春を有名にしたのは、高級国産車「紅旗」を製造した「長春第一汽車製造廠」と「長春映画撮影所」。
長春の中国語は普通話に最も近く、人々の話す言葉も美しい。また容姿端麗な男女が多く、俳優やアナウンサーなどを多く輩出する街としても知られる。実用中国語という観点では、留学先としても適していると言える。しかし、生活面においては特に気候は過酷で、冬は極寒で雪が常に凍るほど。そのため食習慣も南方の上品な料理とは異なり、カロリーの高いものが多く、米よりも小麦粉料理が主で味つけも濃い。
● 杭州 Hangzhou 【浙江省】
浙江省の省都。中国の六大古都のひとつでもある。秦始皇帝が銭塘県を設置したことから始まり、隋の時代で「杭州」と呼ばれるようになる。南宋王朝の150年間、杭州は首都として栄華を極める。隋煬帝が杭州と北京を結ぶ京杭運河を開通させてからは、中国の南北交通と貿易の中枢としても機能。一方では観光資源にも恵まれ、特に名高い西湖の四季折々の景色は、古くから文人が愛した風景である。「才子」と呼ばれる佳人を多く輩出してきた地でもある。またさまざまな伝統文化もはぐくまれた地で、特に茶文化は独特。現代にも継承されており外国人からも人気が高い。
杭州にも浙江独特のなまりがあるが、まったく通じない方言ではなく、語学の体得が十分可能である。1年を通して観光客でにぎわうが、長期留学することで初めて味わえる、美しく落ち着いた街の雰囲気が魅力的である。
● 南京 Nanjing 【江蘇省】
江蘇省の省都。北京、西安、洛陽と並ぶ中国四大古都のひとつ。南京は三国時代、呉の孫権が都を移して以来、10王朝が南京に都を置いている。街を横切る秦淮河は長江の支流で、秦の始皇帝が掘らせて造られたとの伝説がある。また、辛亥革命後の1912年には、孫中山(孫文)が中華民国臨時政府を置いたことでも知られる。
上海から約300kmあるが、鉄道、高速バスなどが整備され、3時間ほどで到着できる。上海からも近く便利なうえ物価が安く、街中は緑にあふれ、上海のような都会的な混雑もなく落ち着いて生活できる。しかし、南京と聞けば、われわれ日本人にとっては日中戦争初期の南京事件という歴史がまず浮かぶ都市でもある。現在は、日本人留学生が生活を送るにもなんら支障はない。とはいえ、悲惨な歴史の舞台になった地であることの認識が必要である。
● 成都 Chengdu 【四川省】
四川省の省都。四川盆地の西部に位置。四川は中国の代表的な盆地。楊子江などの大河の恵を受けた穀倉地帯でもあり、別名「天府の国」と呼ばれる。歴史は古く、劉備玄徳がこの地に蜀漢の国を建てた、三国時代にまでさかのぼる。また、8世紀には国内を放浪した杜甫が成都でいおりを結んだことでも知られる。
有名な四川料理は唐辛子や山椒をきかせた独特の「辣」料理で、郷土料理として有名な麻婆豆腐や担々麺はここ成都が本場。香辛料や漢方薬材の集散地であることでも知られる。パンダも成都に生息し、国立研究所も設置されている。言葉はなまりがきつく、巻き舌音の区別があいまいなうえ、声調が安定しない。南方のように確立された方言ではないので、生活はできるが慣れるまでは聞き取りに苦労する。
● 昆明 Kunming【雲南省】
雲南省の省都。雲貴高原のほぼ中央に位置する。四季を通じて温暖。年中花と緑が絶えることはないため、別名「春城」とも。
雲南省全体で25の少数民族が暮らしているが、昆明には12の民族が住んでいる。とはいえ市内では特に少数民族の言語が使われているわけではなく、共通語で通じる。独特の街並みと何より気候の穏やかさが魅力である。また昆明を起点としてさらに少数民族の街を訪れる人も多く、各国の外国人が集まっているのも特徴。
1999年の世界花博をきかっけに街はいっせいに整備され、交通、物資調達とも便利になった。
● 厦門 Xia-men 【福建省】
福建省の東南沿海部。台湾海峡を隔てて台湾と向かい合う。明代から貿易港として栄えた港町。現在は5大経済特区のひとつである。航路を通じ、潮州、汕頭、香港、さらには南洋諸島につながったため、華僑の故郷とも語り継がれる。市内は海を臨み開放的。年間平均気温21度と温暖で、街道にはヤシや果物の木が生い茂り南国風情にあふれる。行き交う人々は洗練されており、英語を操る人も多い。さまざまな海産物、色とりどりの果物、野菜が1年を通して実る豊かな街でもあり、格安で新鮮な食材が手に入る。市内の言語は閩南〈ミンナン〉語。福建省南部や台湾と同じである。