カナダの高等教育機関はほとんどが公立(州立)で、高水準で実践的な教育が行われている。留学中や卒業後に就労できるプログラムも多数用意されており、グローバルな環境でさまざまな体験を積むことができるのも特徴である。
教育制度は州ごとに管轄
カナダには全国で統一された教育制度はなく、教育は州政府が管轄している。連邦政府には日本の文部科学省のような役割を持つ政府機関はなく、各州の教育省が教育基準を設定し、カリキュラムを組んでいる。カナダの10州と3準州がそれぞれに独自の教育制度を持ち、地域的な特徴や歴史、文化が反映されている。ただし、学制を初等教育(小学校)、中等教育(中学・高校)、高等教育(大学・カレッジなど)の3段階に分けていることや、初等教育の開始を6歳とすることなど、基本は共通している。
個性重視の初等教育とコース分けされる中等教育
カナダの義務教育期間は州ごとに異なり、6歳ないし7歳から15歳または18歳までとなっている。州によって学制の区切り方もやや異なるが、ケベック州(11年間)を除くすべての州・準州で初等教育から中等教育修了までを12年間とし(通称“K-12”)、1学年から12学年までの一貫教育を行う学校も多い。この間に第2言語としての英語またはフランス語の教育を行うのもカナダならではである。基礎教科を学ぶ初等教育課程では、個性重視のゆったりとしたカリキュラムが組まれている。また、多くの学校では生徒のクリティカル・シンキングと分析能力の成長を目的として、メディアリテラシーの訓練などを取り入れている。
中等教育課程に入るとコースが二分され、大学進学を目的としたコースと、カレッジや技術専門学校への進学および就職に備えるためのコースとに分かれる。大学進学コースでは、さらに文系と理系とに分かれ、大学での基礎課程を学ぶ。進学には日本のような入学試験はなく、中等教育課程での成績が重要になる。また、必ず希望の学部に進学できるという保証もない。入学の最低条件は、州や教育機関、プログラムによっても異なる。
初等・中等教育課程を提供する教育機関には、国民は無償で教育が受けられる公立校のほか、キリスト教の宗派別のセパレート学校や私立校がある。
大学とコミュニティーカレッジ
カナダの高等教育機関は、学士号以上の学位を授与する「大学」と、それぞれの地域に根ざした就職を目的とした人材育成と成人教育の機関である「カレッジ」(「コミュニティーカレッジ」ともいう)がある。カナダには、日本の文部科学省にあたるような、国家レベルで教育を管理・運営する機関はなく、各州の教育省が教育の管理・運営を行う。
中等教育課程を修了(卒業)して、高等教育機関への進学に必要なコースで規定以上の成績を取ると、大学やカレッジなどに入学申請をする資格を得ることができる。大学には、州立と私立があり、学位の取得ができる大学・カレッジと学位に関係ない大学・カレッジがある。カナダで学位を取得できるのは、大学と学位授与権のあるカレッジだけ。カナダには、200以上の学位授与権をもつ高等教育機関(カレッジを含む)がある。
なお、ケベック州は特殊で、初等・中等教育が11年間とほかの州の12年間よりも短いので、総合大学へ入るには CÉGEP(セジェップ)と呼ばれる2年間のカレッジの卒業資格が必要。CÉGEPは高等教育機関に含まれ、大学進学コースと職業訓練コースに分かれている。
カナダ留学では、いきなり大学を目指すのではなく、カレッジのTransfer Programを経由して大学に編入し、最終的に大学学位を取得して卒業するパスウェイなどの制度もある。
総合大学と小規模大学
現在、カナダの大学の大半は、一部の私立校などを除くと、州を通して学校の運営資金の提供を受ける公立校である。現在、100校強の大学がある。英語とフランス語を公用語とする国だけあって、カナダにはケベック州などのフランス語圏を中心に、フランス語を主な教育語とする大学も多い。
大学は、学部・大学院の両課程を持つ大規模な総合大学と、学部重視型の比較的規模の小さな大学とに分けることができる。総合大学は医学部を持っているかどうかに注目するとタイプが見分けやすく、医学部を持たない総合大学は、修士課程を中心に経営学や法学などの分野で実践的な大学院プログラムを充実させていることが多い。一方、医学部を持つ総合大学は、実践的プログラムを提供する以外に、研究も非常に重視し、さまざまな分野で博士課程まで設けている。
また、カナダではテクノロジー・クラスターと呼ばれる研究開発機関が多数大学学内に存在しており、在学中から最前線の研究・開発に携わることができる可能性もある。
州によって異なる教育基準
カナダには、日本の文部科学省のような教育を国家レベルで管轄している機関がないため、教育内容や教育水準に関する基準は州によって異なる。高校を修了するのに必要な単位数や卒業に必要となる各種の条件も州や学校によって決められている。
留学希望者がカナダの高校で学び、カナダで進学を希望するケースを一例に取ると、卒業した高校のある州とは別の州の大学へ進学を希望した場合に、大学の入学条件に合わないことがある。地域の交流活動を卒業条件に課していることもあれば、州の実施する英語テストに合格していること、「大学進学コース」を高校で履修していることなど州によって高校の卒業条件が異なるため、大学の入学条件に不足が生じることもある。留学カウンセラーは、カナダ留学では、州を変えて進学先を選ぶのはリスクがあることを事前に案内する必要がある。
下記に挙げた州別の教育情報をチェックし、留学希望者の条件が合うかどうかを事前に確認しておこう。
〈登録・編入事情を知るための州別情報源〉
●ブリティッシュ・コロンビア州
BC Transfer Guide
https://www.bctransferguide.ca/
●アルバータ州
Alberta Council on Admissions and Transfer
https://www.acat.alberta.ca/
●オンタリオ州
Ontario Council on Articulation and Transfer(ONCAT)
https://www.oncat.ca
●ケベック州
Service régional d’admission au collégial de Québec(SRACQ)
https://www.sracq.qc.ca/
●ニューファンドランド&ラブラドール州
The Newfoundland and Labrador Credit and Program Transfer Guide
https://www.gov.nl.ca/education/
Post-Secondary Education> Transfer Guide
●サスカチュワン州
https://www.saskatchewan.ca/residents/
Education and Learning> Credits, Degrees and Transcripts > Transferring
Post-Secondary Credits
私立専門学校の関連団体としては、全国規模のキャリアカレッジ協会NACC(National Association of Career Colleges)や、ブリティッシュ・コロンビア州のPrivate Training Institutionsなどがある。
語学学校では、Languages Canadaの加盟校かどうかも確認するとよい。公立・私立合わせて約210校が加盟しており、独自の基準によってプログラムの質と内容の充実を図っている。
誰でも学びたいときに学べる教育制度
日本と違い、カナダの教育機関では「大人の学生」を目にすることが多い。大学院課程に限らず、カレッジや語学学校でも、若い学生たちと机を並べて勉強している。一度社会に出た成人、あるいは定年退職した中高年がもう一度キャンパスに通うことは、カナダでは決して珍しくない。彼ら“mature student”の比率が高いのは、「生涯教育」という考え方と、誰にでも門戸を開いているカナダの教育制度が実社会に根づいていることの表れといえよう。
また、IT技術が発達しているカナダでは教育現場でのインフラの完備が進んでいる。カナダは国土が広いため、「通信教育」は教育制度の基本的な要素として考えられている。
留学生にもさまざまな就労の可能性が
就学許可証を保持している留学生は、学期中は週20時間まで、休暇中はフルタイムで校内外での就労が認められている。ほかにも留学中や卒業後に就労することが可能なプログラムが用意されている。
●Post-Graduation Work Permit Program
この制度は、カナダの大学・カレッジなどで、フルタイムのアカデミックプログラムを8カ月以上履修した留学生は、修了後、最長3年間、現地で就労することができる。プログラム修了後一定期間内にオンラインで申請できる。
Post-Graduate Work Permit
www.cic.gc.ca/english/study/work-postgrad.asp
●co-op とインターンシップ(就労体験プログラム)
学校のプログラムによっては、授業科目に必須科目としてインターンシップやco-op(コープ)と呼ばれる実習(就労)プログラムが組み込まれている。実習(就労)が必修であり、プログラムの一環であることを教育機関が証明し、実習期間が全プログラムの50%を超えないなどの条件を満たす場合には、就学許可証の申請のみで実習のための就労許可証を一緒に取得することができる。就労許可証の発給は就学許可証の取得を前提としており、たとえ就学期間が6カ月以下でも、実習付きのコースの場合は就学許可証を申請しなくてはならない。就労体験プログラムは、大学やカレッジ、専門学校のほか、語学学校でも提供している。
高水準の教育と厳しい成績評価
カナダの大学は、入学時のハードルが高いだけでなく、卒業までの道のりも厳しい。卒業までに学生を一定レベルまで引き上げるため、成績評価も非常に厳しく、テストの成績はもちろん、授業への積極的な参加や貢献度、課題の評価などが成績に総合的に反映される。よい成績を収めるには、日々の積み重ねが重要である。英語力にハンディのある留学生にとっては、かなりハードであることを覚悟しなくてはならない。
カナダでは、一度社会に出た人が再び大学に戻ったり、大学卒業後にカレッジや専門学校に入って専門技術を磨いたりすることが珍しくない。国民の多くが教育に対して高い価値を置いており、高いレベルの教育を受けることがその後の雇用にもつながっている。