● 地理
カナダの面積は日本の約27倍。世界で2番目に広い国だ。国内には6つの時間帯があり、東部と西部では4時間半の時差がある。また地域によって気候が大きく違うのもカナダの特徴のひとつ。例えば、東の大西洋沿岸地域の冬は比較的厳しい。一方、西側の太平洋沿岸は温暖で、アメリカとの国境沿いの南部地域では四季がはっきりしており、夏の暑さや冬の寒さが厳しい。
観光国として有名なカナダには、世界中から数多くの人が集まる観光地がたくさんある。ロッキー山脈やナイアガラの滝をはじめ、神秘的な湖、地平線まで続く大平原(プレーリー)といった大自然のほか、『赤毛のアン』の舞台として知られるプリンス・エドワード島、中世ヨーロッパを思わせる美しい街並みなど、文化スポットもあちこちにある。
● 歴史
現在のカナダ大陸には先住民族が住んでおり、10世紀末に北欧人がニューファンドランドへ入植したことが、先住民族とヨーロッパ人との接触の始まりと考えられている。1497年には、探検家ジョン・カボットがニューファンドランドに上陸し、イギリス領を宣言。ニューファンドランドの周囲の海域が豊かな漁場であることを知る。その後、フランスやポルトガルの漁師が行き来するようになり、遠洋漁業の舞台となった。
16世紀前半に、カナダへのヨーロッパ人の進出が始まり、イギリス人はハドソン湾周辺と大西洋沿岸に、フランス人は主にセントローレンス川と五大湖、さらにはミシシッピ川沿いに交易所を展開、その後の植民地抗争へと発展する。すでにカナダ東部を手に入れていたフランスは、1600年代初めにニューファンドランドの一部をフランス領だと主張し始め、イギリス・フランス両国の植民地争奪
が激化。1759年にイギリスがケベックシティーを陥落させ、パリ条約が結ばれるまで続いた。同条約に従いフランスは、ニューファンドランド島沖のサンピエール島とミケロン島を除くミシシッピ川より東の植民地のすべてをイギリスに割譲した。これ以降、イギリスは、カナダをカナダ植民地と呼ぶようになる。
18世紀後半、カナダへの移民の流入による人口の増加に伴い、イギリス議会は、カナダをアッパーカナダとローワーカナダの2つに分離する措置を取った。
19世紀に入り、2つのカナダをひとつに統合し、カナダ連合法が成立するが、自治権はイギリスに残ったままだった。
しかし、隣国アメリカにおいて独立戦争が終結し、アメリカ合衆国が成立するとアメリカによるカナダ併合の危機が迫った。イギリス議会はカナダの各植民地を統一し、カナダをカナダ自治領として承認することでアメリカ合衆国の勢力に対抗した。
その後、カナダは、第一次世界大戦にイギリス連邦の一員として参戦。大きな役割を果たし、国連の中でイギリスとは別に独自の代表権を得た。1931年に自治外交権を確立。第2次世界大戦にもイギリス連邦の一員として参戦。再び重要な役割を果たしたカナダは、国際的な地位を高めていった。
1945年以降は、それまでのイギリスや東欧諸国からの移民に南欧やアジア、南米などの地域からの移民が加わり、カナダは「モザイク国家」と呼ばれる多民族・多文化国家として発展している。
1960年代、フランス語を日常語とするケベック民族主義が高まり、ケベック分離問題が発生。1970年代にはケベック分離主義者によるテロ活動が活発化したが、1976年、ケベック州議会選挙でケベック分離主義政党が勝利し、フランス語がケベックの公用語として承認されたことで闘争は一時的に落ち着いた。ケベック分離問題は、1980年と1992年にも住民投票が行われ、どちらも否決されている。
カナダ国内の最近の動きとしては、1999年にカナダの国土の約5分の1を占めるヌナブトの自治権が認められ、カナダの準州に加わったこと。香港返還に前後する中国人移民の激増から、1999年には中国系の総督が誕生したことなどが挙げられる。
● 政治
カナダは、議会制民主主義に基づく立憲君主制の連邦国家である。公式にはイギリス女王が国家元首となっているが、実際にはカナダ総督が女王の代行を務めている。カナダは、各州の合意により連邦が設立された経緯から、州に自治権が認められており、各州に首相、内閣、議会がある。
カナダ政府は、長い間アメリカとの協調を基本としていたが、2003年にイラク戦争への参戦を拒否し、アメリカに追随するのではなく、国連を尊重する姿勢を表明した。
● 経済・産業
カナダは、原油・天然ガス、ウランなどのエネルギー資源に恵まれ、天然資源埋蔵量は世界でも上位にランクインしている。また、世界有数の水産物の輸出国でもある。そのほかにも、国土のおよそ3分の1を占める森林を有することから、農林業も盛ん。肥よくな土地を生かした小麦など穀物の生産、牧畜などが行われている。近年では、資源依存型の産業構造から先端技術産業への転換を図り、IT国家として知られている。また、映画産業やメディア産業、観光産業が盛ん。
● 民族性
カナダはアメリカと同じように、多民族・多文化国家である。しかし、いろいろな民族の人たちがひとつのポットの中で溶け合っている「人種のるつぼ」といわれるアメリカに対して、カナダは「モザイク国家」。さまざまな文化や歴史、言語を持った人たちの個性をひとつに溶かしてしまうのでなく、それぞれを生かし、調和していくことを目的としている。
国民の約5~6人に1人が外国生まれの移民一世である多文化国家カナダは、毎年20万人強の移民を受け入れ、連邦全体でも他文化・他民族の人たちとの交流が普段から行われている。アメリカ・イギリス・フランスからの移民も多く、グローバルな環境である。
カナダの公用語は英語とフランス語の2言語で、世界でも数少ないバイリンガル国家だ。2016年時点でフランス語を母語とする人(Francophone)は全体の約2割、英語を母語とする人(Anglophone)は6割弱を占める。このことからも、カナダでは英語が主流言語であることがわかる。ただし、ケベック州は例外。カナダで唯一フランス語のみを公用語とする同州では、州民の約8割がFrancophoneで、Anglophoneは1割に満たない。カナダのFrancophoneの9割弱がケベック州に居住している。
また、公用2言語のほかに、家庭で使用する言葉、「家庭言語」がある。英語を家庭言語とする人は全体の7割弱を占め、Anglophoneの6割弱という数値を上回る。フランス語を家庭言語とする人は約2割でFrancophoneの数値とほぼ同率だ。
カナダは、世界的にも生活水準の高い国として知られている。物価は比較的安く治安もよく、生活面でも住みやすい環境が整っている。広い国土を持つカナダでは、通信網も発達しており、インターネットや携帯電話なども普及している。公共交通機関もよく整備され、福祉や医療制度といった社会保障制度面も整っている。「世界で最も住みやすい都市ランキング」(Economist Intelligence Unit)では、過去数年連続でバンクーバーが1位に選ばれたことがある。