NAFL2巻 よくある質問
|
||
該当ページ | 質問 | 回答 |
p.23-42 | 「シラバス」「カリキュラム」「コース」はどういうものですか。また、それぞれどういう関係なのかを教えてください。 | まず「カリキュラム」から説明します。「カリキュラム・デザイン」とは、どんなことをどのような順番で、どのくらいの期間で、いつ、どうやって教えるか、を考えることです。従って、進度予定表に示されるような具体的なものを指します。 では、カリキュラムで挙げられている「何・どんなことを」というのは、どう決めるのでしょう? それが「シラバス・デザイン」であり、そのコースで学習すべき項目の一覧を考えることです。すると、まず「シラバス」を考え、次に「カリキュラム」を考える、この順番が納得できると思います。 そして、この過程(「シラバス・デザイン」→「カリキュラム・デザイン」)を含んだコース全体を「コース・デザイン」といいます。概念的に最も大きいのが「コース・デザイン」、次が「シラバス・デザイン」そして「カリキュラム・デザイン」ということになります。 |
p.27 | 「シラバス」とは何ですか。 | 教授項目(シラバス)は、日本語のコースを運営する際、考えなければならない重要なものです。このシラバスには構造的シラバス(あるいは構造シラバス)、場面シラバス、機能シラバスなどの種類があります。例えば構造的シラバスの「構造」は「構造言語学(あるいは、構造主義言語学)」(structural linguistics)から来ています。この構造言語学によると、言語はそれぞれの要素の組み合わせ方(すなわち構造)で成り立っており、この考え方を言語教育に応用したシラバスが、構造シラバスです。日本語の教科書で「これは山田さんの本です。」といった形の文から、徐々に「これは、山田さんの英語の本です。」「これは、山田さんが大切にしている英語の本です。」のように形を積み上げていくタイプのものがあります。これは「構造シラバス」にのっとった教科書と考えられます。最近の教科書には「場面シラバス」「機能シラバス」を取り入れたものも多く見られます。この点については、次の書籍に、大まかな記述がありますので、参考になさってください。 <参考文献> 田中望(1988)『日本語教育の方法 - コースデザインの実際』 大修館書店 |
p.46 | 「等時音節性」とはなんですか。 | 中学、高校などの英語の時間には、一つの単語に複数の母音がある場合、この単語はこの母音にストレスがある、という内容のことを習ったかと思います。文の場合も同じで、文の中で重要な単語などにストレスが置かれます。次の例文を見てください。 1.The boy who came yesterday was John. 2.The boy who came today was John. 1の文には、The / boy / who / came / yes / ter / day / was / John / と9つの母音があります(cameのeは発音しません)。そして、boyとyesの間に母音が二つ、yesとJohnの間には母音が3つあります。また、2の文の場合、The / boy / who / came / to / day / was / John / と8つの母音があり、boyとdayの間には母音が3つ、dayとJohnの間には母音が一つしかありません。 1のboyとyes 、yesとJohnや、2のboyとday、dayとJohnはそれぞれ、間にある母音の数が違いますが、英語を母語とする人々には、同じ長さに感じられます。英語を母語とする人々には、間にいくつ母音があるかということは関係なく、ストレスとストレスの間は同じ長さだと感じるのです。 一方、日本人は、間にある母音の数が違いますから、長さも違うと感じます。それは日本語が母音一つ一つの長さは同じとする等時音節性の言語だからです。 言語によって、「同じ長さだ」と感じる基準が異なります。機械で正確に時間を測れば、実際の長さは違うのですが、その言語を母語とする人には「同じ」と感じられるのです。その「同じ」と感じるのを「等時性」と呼びます。 |
p.49 | 「わたり音」は「移行しながら作られる音」とありますが、どういう音ですか。 | 子音を発音するときには、口の中のどこかで空気の流れを妨げて音を作ります。「わたり音」は空気の流れを妨げる所が一カ所ではなく、移動するのです。 「ワ」をゆっくり言ってみてください。最初は、唇の辺りで音がしますが、だんだん奥のほうへ移動していくのが感じられたでしょうか? 分かりにくければ、声を出さず、口の形を同じにして息を吸ってみてください。空気が当たって、冷たく感じる所が違うと思います。このように、複数の調音点を移動しながら発音する音を「わたり音」といいます。 |
p.51 | 3) 長音(引く音) に書かれている『平仮名表記の場合も、「とうきょう(東京)」の「う」を引く音ではなく、[u]であると誤解することもあります。』という文章の意味がよく分かりませんでした。これは本来、東京を平仮名で表記すると「とーきょー」になり、"u"ではない、ということでしょうか。 | 長音の指導で問題となるのは、表記と発音のずれで、長音の発音は前の母音をそのまま一拍分伸ばして発音させます。(この一拍分引き伸ばす、ということから「引く音」とも呼ばれます。)しかし、平仮名で表記する場合、オ列の長音は「お」と表記せず「う」と書きます。本来「とうきょう(東京)」の「う」は長音なので、ご質問の通り“o”という発音で“u”と発音しないということをこちらで述べております。 長音の平仮名の表記については、13巻『日本語の文字表記』p.54にも載っていますので、こちらも併せて参考にしてください。また、以下のサイトは内閣告示、内閣訓令である「現代仮名遣い」で、一般の社会生活における国語表記の目安・よりどころとされているものです。こちらも参考になさってください。 https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/naikaku/gendaikana/honbun_dai1.html |
p.52 | 母音の無音化がわかりません。uの無音化はなんとなくわかるのですがiがさっぱりです。どうしたらいいでしょうか。 | まず、無声化とは簡単に言うと、/i/ /u/がはっきりと聞こえない現象のことを言います。ただ、常に聞こえにくいのではなく、「条件」があります。それが、2巻テキストp.52にあるように 1 無声子音に挟まれた場合 2 無声子音に続く語末 3 例外 になります。 1、2の「無声子音」についてですが、初めて言語学を学び、1巻から進められているのでしたら、まずは、無声化子音はサ行タ行の音とご理解ください。そして、ご自身で以下のように無声子音と有声子音の違いを発音し、母音が無声化する現象を実感してみてください。 キク(k=無声子音)、キグ(g=有声子音) ヒカリ(k=無声子音)、ヒガリ(g=有声子音) 後続する子音が無声子音の場合、有声子音と比べるとやや前の母音/i/が弱い印象があるのではないでしょうか。この「やや弱い母音」が無声化という現象です。「音声」に関わる問題は、普段意識せず発音していることを、問われているので、読んだだけでは分からないことも多いかと思います。ですから、まずは「意識的に」発音してみて、音声を実感することが、理解の近道でしょう。 また「無声子音」については、他にパ行の一部もあります。詳しくは、7、8巻『日本語の音声』で無声音について確認してから、もう一度2巻に戻ると分かりやすくなるでしょう。例えば、7巻p.78について詳しく説明があり、音声も聞くことができます。 |
p.57とp.153の[9] | 実力診断テスト(p.153の[9]グループクラスで発音を指導する場合)の正解がC(教師のモデル発音を聞かせてから、学習者に発音させる)だそうで、解説では、p.57の「第3章3-17を参照してください。」と書いてあります。しかし、第3章3-17には、「まず最初に全員合唱の形で」と書いてあります。それですと、実力診断テスト(p.153の[9])の正解はA「初めから学習者に言わせる」のような気がします。グループクラスでの発音指導について、詳しく説明してください。 | グループクラス・1:1クラスを問わず、対話部分の発音指導のポイントは、まず教師が対話文や語彙のモデル発音を示した後に学習者に発音をさせることです。これは、学習者の立場からすると、自分が発音する直前に教師の正しい発音を聞くことができ、その短期的記憶が残っているうちに自分の発音をすることで、より容易に発音を修正できる効果があります。(テキスト2 p.56「3-14発音の指導」に記載) これを踏まえると、p.153実力診断テスト[9]の選択肢A「初めから学習者に言わせる」は、“教師のモデル発音を示さず”初めから学習者に言わせるため不適切であると判断でき、Cが正解となります。 ご参考までに 、グループクラスの発音指導の流れとして一例をご紹介します。 (新出語彙が対話文の前に示されているテキストの場合) 1.教師が語彙のモデル発音提示→学習者合唱 2.語彙や文法の意味を確認 3.教師が対話文のモデル発話提示→学習者合唱 4.(一応全員が十分に声を出して言えるようになってから) ・一人ひとり別々に言わせる ・クラスの大きさによって数名の代表者に限って発音の個人指導をする ・二人ペアで役割を決めて練習させ教師が適宜個人指導する、など クラスのレベルにもよりますが、1~3は基本的に行い、4はクラスの状況や時間配分などにより選択していくのが良いでしょう。 |
p.86 | ポイントチェックの②が文法、③が未完成だと思ったのですが答えは違います。②変形、③応答との違いと変形、応答練習の記載があるページを教えてください。 | まず、テキストにおける「変形練習」「応答練習」の記載箇所ですが、変形練習はp.67〈3-26〉、応答練習はp.68 〈3-27〉です。記載箇所がわからない場合には、巻末の索引で記載箇所を確認ができますので、他にも同じ場面があったらぜひ利用してみてください。 さて、まず変形練習についてですが、これはp.67〈3-26〉に説明されているように、「テキストによっては文法練習(grammar drill 1)と呼ばれている場合があります」から、②を文法としても間違いではありません。③応答練習は教師の質問に学習者が一定の条件に基づいて答える練習です。応答練習の例は、p.68〈3-27〉で紹介されていますので、確認してみてください。一方、③未完成という解答ですが、これは「文完成(練習)」ということでしょうか。文完成練習というのは、教師が提示した不完全な文を学習者が補って文を完成させる練習法です。p.70の18-24行目に例がありますので、確認してみてください。これは応答練習のように「質問に対して答える」という類いの練習ではないため、③の答えとしては不適切ということになります。 |
p.88、98 | TPRはグアンメソッドと似ているように思います。違いを端的に教えてください。 | グアンメソッドは、理論的根拠を発達心理学に置き、言語習得における幼児の心理的な側面を重視した教授法です。この教授法では、「幼児は思考の順序でことばを使う。従って、教材も思考の順に配列すべきである」という考えで、まず教師が一連の動作を目標言語で記述しながら行い、次に学習者が同じ文を言いながら同じ動作を行うなどといった活動が行われます。直接法がとられますが、完全なものではなく、入門期には学習者の母語を媒介語として使うことも認めています。 一方、TPRは、入門期であっても母語による翻訳を介さず、全て目標言語で行われます。また、「話す準備」ができるまで、学習者は話すことを強制されません。そのため、活動はもっぱら教師が口頭で与える指示を聞いて、指示通りに体を動かすといった練習になります。 TPRとグアンメソッドは、言語と動作を結びつける考え方、また「聞いて理解する」ことを優先するという点では共通していますが、この二つの教授法には上記のような違いがあります。 |
p.90 | 「オーディオリンガル・アプローチ(AL)」と「コミュニカティブ・ランゲージ・ティーチング(CLT)」について教えてください。 | オーディオリンガル・アプローチ(オーディーオリンガル・メソッド、以下AL)は、言語観は構造主義言語学、言語学習観は行動主義心理学を背景理論として戦後60年代まで特に盛んに行われた教授法です。構造主義言語学では、(1)言語は本来、音声であり、文字ではない(2)言語は構造体である(3)音素、形態素、語などの言語要素はルールに基づいて組み合わされており、そこには構造あるいは型(pattern)が見られる、というものが重要な考え方であるため、ALでは音声・文型練習が強調されています。また、行動主義心理学では、人間を含めたすべての動物の行動は、外界の刺激に対する強化によって習慣化された反応の傾向性である、と考えられているため、ALではパターン・プラクティスやミム・メム練習に見られるようなドリルを中心とした指導がなされます。このことから、ALはドリルを中心として文型を理解していく、または口頭練習を優先して話すことが優先される、という記述がよく成されていますが、どちらもALの核となる重要な点と言えます。これに対し、コミュニケーション中心の外国語教育のことをコミュニカティブ・ランゲージ・ティーチング(CLT)といいます。CLTは、コミュニケーション能力の養成という教育目標と、コミュニケーション的言語観というものを基礎とする外国語教育の革新運動で、実体としては二つの異なったアプローチが存在します。一つは教育内容を改訂することにより教育を改善していこうというアプローチ(内容的アプローチ)、もう一つは教育方法を革新することにより目標言語の技能や運用能力を養成していこうというアプローチ(方法的アプローチ)で、両者を合わせてコミュニカティブ・アプローチといいます。 言語の文法的側面よりも機能的側面(表現意図)の習得を重視し、言語運用能力の伸長を促進して、「通じる外国語」の習得を図るというのが、核となる考え方です。 以下、それぞれの練習の特徴を挙げます。 ◆オーディオリンガル・アプローチの練習の特徴 1)ミニマム練習 2)パターン練習 3)コントロールされた会話の練習 4)口頭練習重視 5)誤りの訂正を重視 6)形の正確さを重視 ◆コミュニカティブ・アプローチの練習の特徴 1)インフォメーションギャップ/フィードバックなど 2)問題解決型の活動 3)談話練習 4)誤りの訂正は重視しない 5)流暢さ重視 <参考文献> 西口光一(1995)『日本語教授法を理解する本 歴史と理論編―解説と演習』バベルプレス |
p.99 | 「サイレントウェイ」とはどんな教授法ですか。 | サイレントウェイで使う代表的な教具はカラーチャートとロッドです。この二つを使った活動について例を挙げながら説明します。 まずは、カラーチャートを使った発音や文字の指導です。学習はカラーチャートを使った発音練習と音声と文字の照合練習から始まります。カラーチャートでは同じ音は同じ色で書かれています。日本語では、まず、ひらがなの五十音表のカラーチャートが使われ、それぞれのひらがなは、通常、左右2色で書かれ、左が子音、右が母音を表示するようになっています。あ行の5字と「ん」は1色です。例えば、カ行なら、子音は「かきくけこ」ですべて同じなので、カ行の左側はすべて同じ色になります。ア段「あかさたな…」を見ると、今度は右側の母音を表している色はすべて同じです。(「あ」は母音なので1色ですが)教師はこのようなカラーチャートを使い、一つ一つのひらがなを指し示しながら、発音のモデルを示し、学習者に復唱させます。モデルは必要最低限(理想的には1回)にとどめ、できるだけ学習者に試行錯誤しながらでも言わせます。 次は、ロッドを使った語彙や文法の指導です。ロッドを使った指導法にはいくつかあります。 (1)ロッド自体の特徴を素材として言葉の練習をする方法 例えば、赤、青、黒、白の4つの棒を使い、まずそれぞれを指して「棒」と言い、次に「赤い棒」「青い棒」……というように色を表す形容詞の指導や、ロッドを用いて「~を持ってください」「~を置いてください」「~を渡してください」などの表現を使った動詞の学習などです。 (2)ロッドを物や人に見立てて練習する方法 例えば、長いロッドで四角を作って「公園」とし、その中に「木」「ベンチ」「人」「犬」などに見立てたロッドを置き、「公園に木があります。」「ベンチの下に犬がいます。」などの表現を指導する方法などです。 (3)ロッドを使って語順や文法の練習をする方法 色の異なるロッド(棒)一つずつに、赤=「私」、青=「あなた」、黒=「学生」、白=「先生」、緑=「は」、黄=「です」の役を与え、それを学生に示す。次に、ロッドを赤緑黒黄の順に置き、一度だけ「私は学生です。」というモデルを教師が示す。そして、次に、赤緑白黄の順にロッドを置き、「私は先生です。」など、文法や語順を示していく方法などがあります。 いずれも、教師に頼る方法(モデルの模倣や暗記、復唱など)ではなく、学習者が自ら気付き、学んでいく能力に教師が働き掛けることによって行われる点に特徴があります。 <参考文献> 西口光一(1995)『日本語教授法を理解する本 歴史と理論編―解説と演習』バベルプレス |
p.103 | 「言語を効果的に使うのには、その社会の文化を理解することが不可欠」とあります。「使うのに適切な場面を理解する」と解釈しましたが、あまりイメージが沸きません。具体的な例、場面があれば教えてください。 | この「言語を効果的に使うのには、その社会の文化を理解することが不可欠」を理解するために、前の文「その社会で使われている言語によって「何かを成し遂げる」のには、その言語を使う能力や知識だけでは不十分です。」という点から考えてみましょう。 具体的な例として、「コンビニで買い物をする。」という状況から文化には何が含まれるのかを考えてみましょう。この場合、「コンビニで何かを買う。」ということが、「何かを成し遂げる。」ということにあてはまるかと思います。では、この「何か」が「ビール」のようなアルコール飲料であったとします。日本では「20歳以上です。」という表示画面を自分で押したり、店員さんが何も聞かずに確認画面をタッチしたりして、ビールを買うことができます。しかし、アルコール販売に厳しい国の場合は、IDカードを必ず見せなければならなかったり、またはコンビニで売っていなかったりします。そこで「ビールを買うのでIDカードを持って行く。」「コンビニではなく、専門のリカーショップに行く。」など別の行動が生まれてきます。このような各国の常識的な状況も一つの文化と言えるでしょう。 また文化をもう少し、言語行動に寄せて考えてみると、日本のコンビニで買物をするときは「袋、要りますか。」「(お弁当)温めますか。」のような、店員さんから(一方的な)質問に答えるのみの場合が多いと思います。また店員さんの話し方も、比較的機械的な応答ではないでしょうか。一方、これは私自身の経験ですが、アメリカのコンビニで買い物をしているとき、客と店員が「雑談」をしていることが多いことに驚きました。「おはよう!」「いい天気だね。」のような、フレンドリーな問いかけもよくありました。このような「コンビニで買い物」という同じ場面でも会話の展開が異なっていること、これも文化の一つです。ただ、誤解していただきたくないのは、日本の機械的な応答が良くないということではなく、あくまでも違いであるということです。長蛇の列をなしているランチタイムのコンビニでの雑談は逆に迷惑になるでしょう。また、素早い対応をするために、大きな声でのやり取りになることもあるかと思います。このような、非言語的要素も異なります。 以上のように、「コンビニで買い物をする。」という「何かを成し遂げる」ためには、言語だけでなく実は色々な要素が組み合わさっていることがお分かりになるかと思います。また文化の違いは、国内であっても都心と地方では異なるように、必ずしも国家間の違いだけではありません。以上のような要素が組み合わさることを、どう理解していくのかという過程がp.104にある図です。この説明も併せて理解を深めていただければと思います。 |
p.106 | タスク14についての質問です。私は ・この中で1番綺麗だ ・クラスの中で1番賢い ・学校の中で1番高い場所 という三つの例文を考えたのですが、全ての例文で「~の中で」の表現を使っているのは良くないのでしょうか。解答はさまざまな表現だったため疑問に思いました。 |
お考えになった例文は全て適切な例文です。タスクでは「3つ以上のものから「1番」のものを選び出す場合」に使われる「いちばん」を使った例文を作成することが求められており、特にその他の表現の指定はありません。そのため全てに「~の中で」という表現を使っていることに問題はありません。 ただ、お作りになった例文は全て「~の中でいちばん(形容詞)」という構造になっているので、例文を3つ考えるなら色々なバリエーションを考えてみた方が発見があるでしょう。解答例として示された例文を詳しく見てみると、 例1)日本料理ではすき焼きがいちばん好きです。 は「日本料理(の中)ではすき焼きがいちばん好きです」と、「の中」が省略された形になっており、 例2)土井さんと中野さんと山口さんのうちで、だれがいちばん英語が上手ですか。 は「のうちで」という表現が「の中で」と同じように比較対象を示す表現として使われれています。 例3)あのホテルがいちばん設備がいいですよ。 は、例えば「(この地域のホテルの中で)あのホテルがいちばん設備がいいですよ」などと補うことができます。この例文では比較する範囲が示されていません。 このように一つの表現を示す例文を作る際に、色々な表現や構造を使って文を考えてみることは将来、日本語教師として学習者たちに日本語を教える際に役立つことと思います。色々な表現や構造を使って文を考えてみること、そしてどのような表現・文型を使っているかに自覚的になることは日本語教師としてとても大切なことですので、このような視点を持ちつつ、今後、例文作りのタスクに取り組まれるとよいかと思います。 |
p.107 | タスク16の動詞のて形に「来る」が続く場合について 1.何かをして、それから帰ってくる 2.何かをしに行き、それをしてから、帰ってくる の違いがはっきりと分かりませんでした。例文のように「銀行でお金をおろしてきてください」と銀行という場所が入ると2の意味になるということでしょうか。そうすると、もうひとつの例文「いま千葉さんに会ってきます」を「いま総務課で千葉さんに会ってきます」にすると2の意味用法になるのでしょうか。 |
このタスクでは、「~てくる」という表現の、 ①「何かをして、そして帰ってくる(=to do something and return)」という用法 ②「何かをしに行き、それをしてから帰る(=to go and do something and return)」という用法 の二つが示されています。ただ、タスクで作ることが求められているのは①②の用法それぞれの特徴を示す例文ではなく、②「何かをしに行き、それをしてから帰る(=to go and do something and return)」の用法の特徴がわかる例文です。つまり、「今千葉さんに会ってきます。」「銀行でお金をおろしてきてください。」という2つの例文はともに②の特徴がよく出ている例文ということになります。この点を踏まえた上で以下の説明をお読みいただければと思います。 ①と②の用法の違いは、 ①が「何かをして、そして帰ってくる」 つまり、「別の場所で何かをした後で、ここにいる」ということなのに対し、 ②は「何かをしに行き、それをしてから帰る」、 つまり「今話をしている場所からどこか別の場所へ行き、その場所で何かをして、戻ってくる」という点です。「今千葉さんに会ってきます。」「銀行でお金をおろしてきてください。」という例文はそれぞれ、「今話をしている場所からどこか別の場所へ行って戻ってくる」という含意がありますから、②の用法ということになります。もし例文が、「千葉さんに会ってきました」「銀行でお金をおろしてきました」であった場合、これは①の用法です。なぜなら、この場合には「今話をしている場所からどこか別の場所へ行って戻ってきた」という意味はなく、「別の場所で何かをした後で、ここにいる」という意味を示すからです。つまり、このタスクが示しているのは、「~て+来る」という形式が①「何かをして、そして来る」のように、「~て」と「来る」と動作の順番を単純に足した意味ではなく、②の用法のようにそれ以上の意味(今いる場所からどこか別の場所へ行って、という意味)を持つことができるということなのです。 |
p.107 | タスク19の答えとして「赤ちゃんが歩くようになる。」を考えました。問題ないでしょうか。解答例には「…ようになりました。」とありますが、例文としては変化させない方が良いと考えたのですが、いかがでしょうか。また、解答例には主語があるものやないものがありますが、それは気にしなくても良いのでしょうか。 | タスク19の答えとしては「赤ちゃんが歩くようになる。」で問題ありません。ただし、現在形・過去形の文がそれぞれどのような意味を表すのか、把握している必要はあるでしょう。以下、例文をもとに考えてみましょう。 「生後10ヶ月頃から赤ちゃんは歩くようになる。」 →変化そのものを表す 「息子(赤ちゃん)が最近歩くようになった。」 →変化のあとの結果を表す このように現在形・過去形でその文が表す意味は異なるため、学習者に提示する際はそれぞれの意味を指導する必要があります。 次に、例文の主語の有無ですが 、このタスクでは「ようになる」がポイントなので、(主語を)省略しても問題ありません。ただ、ここで「主語」とご質問のある「青木さんは」などは、「主語ではなく主題」であることに注意 しましょう。タスク19の解答例で具体的に考えると、3)「あのバーへはもう行かないようになりました。」は話者本人のことを述べていると考えられます。そこに、主題の「私は」を追加し「私は、あのバーへはもう行かないようになりました。」としても間違いではありませんが、話し手も聞き手も誰の話かわかっている場合「私は」は省略される傾向にあります。 また、「あのバーへは」の「は」は、主題の「は」ではなく、対比の「は」であり、「あのバーへはいかないようになったが、隣町のバーへは毎日行っている。」という意味になります。このことから、3)「あのバーへはもう行かないようになりました。」という文は主題の「は」は省略され、対比の「は」は追記されていると考えられます。 上記の「は」の意味・用法(「主題」「対比」)については、テキスト10「日本語の文法~基礎」p.55-58に説明がありますので、あわせてご参照ください。最後に、このような文法表現を考える場合、本文の例文やご自身で考えた例文などから実際の運用を踏まえて分析すると、より理解が深まるでしょう。 |