● 地理
ヨーロッパ最北西に位置するアイルランド島は、「エメラルド島」の別名を持つ牧草に覆われた緑豊かな島。西側に大西洋、東側にはアイリッシュ海を望み、その向こうには大ブリテン島がある。イギリス連邦の統治下にある北アイルランドは同じアイルランド島の北東部の区分された領域にある。アイルランドは、アイルランド島のおよそ80%以上の面積を占めている。
アイルランド島は起伏に富み、石灰石で覆われた広い中央平野部と山の多い海岸部から成っている。中部から西部は土地が貧しく、岩の景色が広がっている。
アイルランドの気候は、緯度が高いにもかかわらず、周囲の海からの緩和作用のため、比較的温暖だ。冬でも山間部以外では雪が積もることはほとんどなく、夏でも平均気温は14~16℃と過ごしやすい。
● 歴史
約9,000年前からアイルランドにはケルト系民族が住み、紀元前から独自の言語であるケルト語を話し、進歩した社会・法律体制や豊かな口伝の文化を持っていたといわれている。その後、数世紀の間に修道僧たちが国内やそのほかのヨーロッパ諸国に学校を開設した。8世紀から10世紀にかけて、侵略者(バイキング)や移民者が、現在のダブリンやコークなどに新たに都市を建設して、商取引を始めた。
12世紀に入るとウェールズからのノルマン人に征服され、植民地化された。17世紀までにはアイルランド全体がイギリスの支配下に置かれた。1801年にアイルランド議会は自らの投票によって議会を廃止し、完全にイギリスに合併された。その後、長年にわたる独立運動の末、1922年にアイルランド32州のうち26州から構成されるアイルランド自由国(Irish Free State)が成立。残りの6州はベルファストに独自の議会を築き、北アイルランドとしてイギリス連合王国に属したことから、イギリス連合王国は「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」と命名された。その後、アイルランド自由国はエール(Eire)に改名されるが、1949年、完全独立共和国を宣言した。
● 政治
アイルランドの国家体制は、議会制民主主義。国家元首は大統領で、2012年6月現在は、2011年の選挙で国民の直接投票によって選ばれたマイケル・D・ヒギンズが務めている。ただし、大統領はいくつかの部分的権限は持っているものの、通常は儀礼的役割を果たすのみである。
国会は上院と下院から成り、下院での選出で総理大臣(ティーショック)が決まる。政党は、共和党(フィアナフォイル)と統一アイルランド党(フィネゲール)の2大政党政治。現在の首相は、統一アイルランド党の党首であるエンダ・ケニーで、2011年に選出された。同首相は、犯罪対策や失業対策といった社会政策を重視するとともに、ハイテク産業を中心とする経済の再活性化やインフラ整備などに力を注いでいる。2013年にはEU議長国を務めた。
● 経済・産業
1980年代半ば、アイルランドは高い失業率、他国への移民者数の増加、国債の増大など、深刻な経済問題に直面した。政府は経済政策に着手し、その結果1995年から2005年にかけてのGDP(国内総生産)成長率は平均7.7%を記録、1995年から2007年にかけての一人当たりのGDPは15,000ユーロから40,000ユーロに成長、後に「ケルティックタイガー」と呼ばれる急激な経済成長を遂げた。近年は、政府が最重要視してきたITや医療技術関連ビジネスを中心に経済状況は上昇傾向にある。2014年は、輸出や個人消費の拡大により、欧州内で最も高い4.8%のGDP成長率を達成した。生活水準は高く、暮らしやすい。
● 民族性
一般的に、アイルランド人は、人を温かく迎え入れる気質を持ち、親しみやすく陽気だといわれている。
中世から教養を重んじ、本、音楽、映画、コンピューターなど文化的な事柄を好む人が多い。また、アイルランド人=ギネスビール=パブというイメージが世界に定着しているほど、パブはアイルランド人の生活に欠かせない存在である。パブは「パブリックハウス」を短縮した名称だが、その名のとおり、アルコールを飲むだけでなく、会合やイベントを開くなど社交の場となっている。
アイルランドの第一公用語はアイルランド語(ゲール語)で、英語は第二公用語になっているが、現在ではアイルランドのほとんどの地域で英語が話されている。
アイルランド人の英語にはイギリス英語のようなアクセントの強さはないが、アイルランド語の影響を受けた独特の英語を話す人もいる。会話の中にアイルランド語の単語や、アイルランド語風の発音が交ざることもある。