学部・大学院ともに専門性の高さが特徴。教育制度の異なる国から留学生を迎え入れるために、学力や英語力のレベル合わせを目的とした進学準備コースが充実している。
イングランド、ウェールズと北アイルランドの教育制度
イギリスでは5~16歳が義務教育の期間で、初等教育と中等教育との2段階に分かれている。教育機関は、授業料が基本的に無料の公立校(state school)と、有料の私立校(independent school)とに大別できるが、公立校と私立校とでは教育機関の呼び名や履修期間に違いが見られる。
公立校は政府や地方自治体によって運営されており、国内の児童全体の90%以上が通っている。5~11歳までの児童が行く初等教育機関はプライマリースクール(primary school)と呼ばれ、11~16歳までの子どもが行く中等教育機関はセカンダリースクール(secondary school)と呼ばれる。
公立の中等教育機関の数はイギリス国内に4,000校ほどあり、さらに、入学が選抜制のグラマースクール(grammar school)と、無試験で入学できるコンプリヘンシブスクール(comprehensive school)とに分かれる。グラマースクールは基本的に進学校と考えていいだろう。
私立校は“independent”の文字が示すとおり、独立運営されている学校で、保護者などからの寄付金や授業料によって運営されている。私立校はイギリスにおよそ2,400校あるが、通っている児童は国内の児童全体の10%に満たない。パブリックスクール(public school)と呼ばれる名門校も私立校に含まれ、その数は450校ほどである。
私立校の場合、初等教育機関には、7歳までの子どもが学ぶプレプレパラトリースクール(pre-preparatory school)と、11歳または13歳前後までが学ぶプレパラトリースクール(preparatory school)とがある。この後に進む中等教育機関はセカンダリースクールまたはシニアスクール(senior school)と呼ばれ、18歳までの子どもが学んでいる。プレパラトリースクールはジュニアスクール(junior school)と呼ばれることもあり、シニアスクールへの進学に備えた教育を行うが、ジュニアスクールからシニアスクールまで一貫教育を行っている私立校も多い。私立校の多くは寮設備を持つボーディングスクール(boarding school)で、寮生と通学生を受け入れる学校が多く、完全な寮制の学校は数少ない。
なお、イギリスでは教育の地方分権化が進んでいて、スコットランドでは中等教育は12歳から始まり、北アイルランドでは4~16歳が義務教育となっている。16歳になると、修了試験GCSEを受けて義務教育を終え、その後大学などへ進学を目指す人は2年間のシックススフォーム(sixth form)へ進む。
スコットランドの教育制度
スコットランド地方の教育は独特だ。スコットランドの大学では通常修士号を意味する“master”の名を持つ学位が、学士号として多数提供されている。大学の学校案内にはそれぞれの学位のレベルが明記されているが、紛らわしい。
また、古くからスコットランドの大学では、学部課程において、3年制の普通学位(ordinary degree)と4年制の優等学位(honours degree)という2種類の学位を授与してきた。スコットランドでは、「普通学位」の評価も高く、「普通学位」を取得して課程を修了する学生もいる。このほか、イングランド地方など他地域の学生がスコットランドの大学への進学を希望する場合、入学時の成績(GCE-Aレベルなど)がよいと、学生は、課程の1年目を免除されることもある。
学部・大学院両課程で柔軟化する教育
イギリスの大学教育では、大学が定めたカリキュラムに沿ってひとつの分野を深く掘り下げて学位を取得する方法が伝統的に採られてきたが、時代の流れとともに雇用者や学生のニーズが多様化したため、「単位」を取る(蓄積する)ことで学位を取得する制度を導入し、カリキュラムの柔軟化に努める大学が増えてきた。これは、モジュラー制(modular degree / course unit schemes)と呼ばれるもので、学生は、希望する専攻分野や学位・資格に応じて、履修科目(module / course unit)を自由に組み合わせ、必要な単位数を取る。
モジュラー制が浸透するとともに、課程の途中で専攻を変更したり、複数の専攻分野を学んだりと、イギリスの大学教育全体の自由度が増してきている。学士号も、ひとつの分野を深く勉強して取得する伝統的なsingle honours degree以外に、2~3の専攻を同時に選択して、3~4年で取得するjoint / combined honours degree なども一般的になってきた。大学院課程においても、パートタイム学生の増加などに伴い、履修に関して学生の自由度が高いモジュラー制の採用が増える傾向が見られる。モジュラー制は、学内の人的・知的資源を共有でき、学際的な教育・研究を行ううえで好都合なこともあり、今後もイギリスの大学に浸透していくものと思われる。
イギリスの高等教育機関では、2001年9月からは、実践的な職業分野において、学位を短期間で取得したいというニーズに応えるものとして、2年制のfoundation degree コースの提供も始まった。また、これまで述べてきたような学位のほかに、BTEC HND(Business and Technical Education Council Higher National Diploma)に代表される、職業・専門的な色合いの濃い資格取得を目指すコースの提供も盛んに行われている。
きめ細やかな大学の教育品質保証
イギリスの大学は、格差の少ない良質の教育を提供していることで定評がある。もともとイギリスの教育機関が学位を授与するのには、政府の定めた教育管理基準を守り、学術的な基準を保つための適切なシステムがあることを証明しなくてはならない。それが認められると、設立勅許状(Royal Charter)または枢密院(Privy Council)により、学位を授与する権利を与えられる。
また、それぞれの教育機関を公的機関が定期的に厳しく監視するシステムがあることも、教育を高水準に維持するために役立っている。大学の「教育の質」に着目して、学術レベルを専門分野別に調査しているのがQAA(The Quality Assurance Agency for Higher Education)。さらに、教育の質について、新たにTeaching Excellence Framework(TEF)が導入された。これは、各大学の学部レベルにおける教育の質を公的に評価するスキームで、2017年6月に初の評価結果が公表された。大学院レベルの教育は対象に含まれていない。各高等教育機関のTEFへの参加は任意で、スキームに参加する教育機関はそれぞれ学部の教育・学習環境・学生の業績の質を、評価が高い順にゴールド、シルバー、ブロンズの3段階で評価される。TEFはイングランドの教育省によって開発されたものの、スコットランド、ウェールズおよび北アイルランドの教育機関もスキームに参加することが可能。TEFは、学部学生が進学先を選ぶ際の判断基準とすることを目的としている。「研究の質」について、そのレベルと内容を専門分野別に評価する公的調査がREF(Research Excellence Framework)。これらの調査結果は一般に公表されているため、大学は常に向上努力を求められるのである。
〈関連リンク〉
● QAA(The Quality Assurance Agency for Higher Education)
http://www.qaa.ac.uk/
● REF(Research Excellence Framework)
http://www.ref.ac.uk
● Teaching Excellence Framework(TEF)
www.hefce.ac.uk/tefoutcomes
専門学校と語学学校の認定機関
公立の専門教育機関も定期的に国の審査を受けることで教育の質を保っている。私立校は政府の管轄外だが、自主的な学校認定機関であるBAC(British Accreditation Council)が、設備や教授法、福利厚生面などの審査を行っており、認可校であればこれらの面で一定の基準を満たした学校と考えられる。そのほか、CIFEも独自の教育基準を持ち、加盟校に対して審査を行い、結果をBACに報告している。ただし、BACは、各校が出す独自の資格に関する審査は行っていない。
同様に語学学校にもブリティッシュ・カウンシルの認定制度をはじめ、各種認定機関があり、授業の内容や設備、教材、サポート体制など留学生が勉強する環境の質を保証している。
私立専門学校の認定機関
● BAC(British Accreditation Council)
http://www.the-bac.org/
● CIFE
http://www.cife.org.uk/
語学学校/コースの認定機関
● English UK
http://www.englishuk.com/
● British Council Accreditation UK
http://www.britishcouncil.org/education/accreditation
● EAQUALS(The European Association for Quality Language Services)
http://www.eaquals.org/
● BALEAP(British Association of Lecturers in English for Academic
Purposes)
http://www.baleap.org/
充実した職業・専門資格制度
イギリスの職業・専門教育の魅力を支えているのが、資格制度の充実ぶりである。あらゆる職業分野のコースがあるのはもちろんだが、レベル分けが明確な資格システムが整っているのも大きなメリットである。どんな専門資格をどこが授与するのかを知っておくと、留学先の候補の学校や、修了後に得られる資格が正式なものなのかを判断する目安となる。ただし、イギリスでは、資格授与機関が頻繁に変更になるため、最新情報を常にアップデートしておく必要がある。資格は9段階に分けられ、数が多いほどレベルが上になる(高等教育レベルの学位・資格は68ページ~で解説)。
〈主な試験や資格授与機関〉
● City and Guilds
1878年に創立された、大規模な資格授与機関。NVQ / SVQ(National /Scottish Vocational Qualifications)をはじめ、City and Guilds 独自の資格など、約400種類以上の資格を提供している。
● Edexcel
世界レベルの学術および一般資格。2003年5月、Penguin Groupを傘下に置く巨大な情報出版企業Pearsons 社が、BTEC(Business & Technology Education Council)関連の資格提供機関として有名だったEdexcel を吸収し、2013年に認定機関はPearson Educationとなった。
● LCCI (The London Chamber of Commerce and Industry)
ビジネス関連の資格として100年以上にわたる歴史をもつ。企業や大学など世界86カ国、8,000カ所以上でLCCI の資格が認められている。認定機関はPearson Education。
● OCR(Oxford Cambridge and RSA Examinations)
150年余りの歴史を持つ、イギリスを代表する試験機関が合併し、1998年に誕生した。GCSE(General Certificate of Secondary Education)の提供機関として知られる。
〈主な職業・専門資格〉
● BTEC Firsts
● BTEC Nationals
● BTEC Specialist and Professional qualifications
● BTEC Higher Nationals
BTEC(Business & Technology Education Council)はイギリスでも特によく知られた職業資格。仕事に関する技術や対人能力、思考能力を伸ばすツールとして、世界で25年以上の実績をもつ。上から順に資格レベル2、3、4、4〜5。
● NVQ(National Vocational Qualifications)
各産業分野において必要とされる技術・能力を基準にして作られた新しいタイプの資格。実際の仕事上、何ができるのかに重点が置かれ、知識と同様に評価される。1〜5の5段階(level)評価。City and Guilds、Edexcelをはじめ、さまざまな試験機関から授与される。
● Scottish HNC(Higher National Certification)
● Scottish HND
スコットランドの高等教育レベルの資格。Scottish HNC 取得者は、スコットランドの大学の2年次に、Scottish HND 取得者は同3年次に編入することもできる。
● SVQ(Scottish Vocational Qualifications)
NVQ と同レベルのスコットランドの資格。SQA(Scottish Qualifications Authority)が授与する。
● Vocational A-level
AVCE(Advanced Vocational Certificate of Education)とも呼ばれる。GNVQのadvanced レベルに代わって生まれた。アカデミックなGCE-A レベルに対応する職業・専門的な資格で、大学学部課程入学資格として認められることもある。
● Vocational GCSE(General Certificate of Secondary Education)
2002年9月から、Part One GNVQ に代わって生まれた資格。foundation レベルとintermediate レベルをカバーする。
● Foundation Degree
特定の業種で働きたい人に対する職業直結型の学位で、2年間で取得可能。コースの中にワークプレースメントが組み込まれていることが多い。
日本の大学に比べて短期間で学士号・修士号が取得できる
修士課程の履修期間は約1~2年、博士課程は3~5年が目安となっている。一般的に、日本やアメリカの大学の修士課程は2年制だが、およそ半分の期間で修士号が取得できるコースが多い点はイギリスの高等教育の大きな特徴といえる。
大学で取得可能な学位は、第1学位(first degree)と上級学位(higher degree)とに分かれ、学部課程で取得する第1学位には、一般に、「学士(bachelor)」の称号が与えられる。一方、上級学位は大学院課程において提供され、修士号(master’s degree)と博士号(doctoral degree)とに分かれる。
学士号取得コースの履修期間は通常3年。日本やアメリカの大学に比べ、1年短い。イギリスでは、中等教育の段階から教育カリキュラムが非常に専門分化している。これを引き継ぐ形で、一部の例外を除くと、イギリスの大学には一般教養に類する課程は設けられていない。学部課程の1年目から専攻内容に踏み込んだ専門的な教育が行われ、これが履修期間の短縮につながっているのである。
なお、歯学、医学、獣医学など、専攻によっては学士号取得までに約5年かかるものもある。また、現代言語学では、例えばフランス語であればフランス、イタリア語であればイタリアといった具合に、学んでいる言語が話されている国で1年間学習を深め、合計4年で学士号を取得するパターンが多い。このほか、イングランド、ウェールズ、北アイルランドでは、工学分野を4年間かけて深く学び、MEng(Master of Engineering)を取得する“undergraduate master”と呼ばれる学位がある。
進学準備コース
イギリスの大学教育は、学部・大学院のどちらの課程も専門性の高さが特徴。一般教育が盛んな日本の高校を卒業して、直接イギリスの大学に入学するのは難しいとされる。イギリスでは、教育制度の異なる国から留学生を迎え入れるために、学力や英語力のレベル合わせを目的とした進学準備コース(foundation course、bridging courseなどと呼ばれる)が充実している。学部課程進学用のコースに比べると数は少ないが、大学院進学を目指す準備コースもある。大学院進学準備コースは履修期間1年という密度の濃いイギリスの修士課程を乗り切るために、入学条件をクリアしている人にとっても利用価値が高い。
大学以外の豊富な教育機関
イギリスは教育機関の選択肢が非常に多い国である。総合大学や専門大学のほかの高等教育機関としては、高等教育カレッジ(higher education college)とユニバーシティーカレッジ(university college)がある。大学との主な違いは、高等教育カレッジは独自に学位を授与できないことで、提携している大学を通じて授与される。大学よりは実践的な教育に比重が置かれる小規模校が多く、サポート体制が整っているのが特徴。ユニバーシティーカレッジは、この高等教育カレッジが学位を授与できるようになった学校で、いずれ大学になると考えられる存在である。
一方、継続教育機関として専門教育を担っているのが専門学校(継続教育カレッジ[further education college])と呼ばれる公立の専門学校と私立の専門学校である。私立の専門学校が日本の専門学校に似ているのに対して、公立の専門学校は1校がビジネスやホスピタリティー、デザインなど複数分野をカバーしているのが特徴。専門学校レベルの資格だけでなく、大学レベルの資格(Foundation DegreeやHND)取得のプログラムもあり、これらの資格を取得すると大学への編入が可能なため、高等教育機関との「橋」の役割を果たしている。また、高等教育と継続教育の両方のプログラムを提供するカレッジも多い。
イギリスでは資格制度が整っており、取得した公的資格はどこの教育機関でも通用し、また教育機関間の提携が進んでいるため、学校の選択肢が幅広い。留学カウンセラーとしては、留学希望者の目的や学びたい内容、レベルをなるべく明確に引き出していくとともに、その人の個性と学習環境を考え合わせたうえで留学先を勧める必要があるだろう。
最長1年間の体験留学プログラム
イギリスの大学には、留学生が大学生活を体験できる短期留学プログラムを持っているところが多く、日本の大学在学中に留学したい学生にはチャンス。JYA(Junior Year Abroad)、またはstudy abroad programmeなどと呼ばれるもので、一般のイギリス人学生と同じ授業に参加できる。期間は1学期~1年間で、学部課程のプログラムが中心となる。
プログラムの構成は学校によってさまざまだが、英語学習がセットになっているものが多い。日本の留学生のために4月からスタートし、最初の4~6カ月程度を英語学習に充て、残りの期間は、大学の授業に参加する1年のプログラムを用意している大学もある。
大学によっては履修できる科目が決まっていることもあるが、単なる授業見学ではなく、授業やセミナーで発言したり、チューターと学習の進め方について話し合ったりと、大学教育に積極的に参加できるのが魅力である。大学の教育・スポーツ施設なども普通に利用できるので、イギリスの大学生活を存分に味わえる。
プログラムを修了すると、通常は科目ごとに成績証明書が発行される。日本の在籍大学がそれを単位として認めれば、4年で大学を卒業することもできるので、留学カウンセラーは留学前に大学に確認しておくことを勧めるのがよいだろう。入学条件として、日本の大学で2年次を修了していること、一定の英語力、関連分野の知識があることなどを求められることが多い。
中学・高校の成績評価方法
イギリスと日本では、「卒業」に対する意識が異なる。日本では一定期間在学して勉強すれば中学卒業や高校卒業の資格が得られ、それを持っていることが進学の第一条件となる。一方イギリスにおいて、進学や就職の際に選考基準として用いられるのは、各教育課程の中で受験する統一試験の結果だ。義務教育を修了するときに受けるのがGCSE、シックススフォームで受けるのがGCEASレベルとGCE-Aレベルの統一試験。学校から巣立つという意味で「卒業」の意識はあるものの、卒業資格という考えはない。
職業的知識や技術の要素がより強いものとして、vocational GCSE とvocational-Aレベルがある。またIB(International Baccalaureate)という国際的な資格を目指す試験もある。
【Column】名門パブリックスクール
「紳士養成機関」としてエリートを輩出してきたパブリックスクールは、イギリス社会を象徴する存在。その魅力を探るとイギリスの教育の原点が見えてくる。
パブリックスクールの歴史は1382年、南西イングランドにWinchester College が設立されたことに始まる。以後、それをモデルにいくつものパブリックスクールが誕生していった。Eton College(1440年設立)、Rugby School(1567年設立)、Harrow School (1572年設立)などがよく知られている。
かつて、イギリスの支配層だった裕福な家庭では、子弟に家庭教師をつけて後継者たるにふさわしい教養を身につけさせていた。このような「プライベート」教育に対して、一部の貴族や聖職者たちは優れた人材を育成するため「公衆=パブリック」から優秀な若者を集め、教会や貴族の邸宅を使って英才教育を提供し始めた。これがやがてパブリックスクールと呼ばれる教育機関の源である。
〈イギリスで認知度の高い統一試験〉
● GCSE(General Certificate of Secondary Education)
イギリス人のほぼすべての生徒が受験するスタンダードな試験。受験のための学習は14歳から始まり、16歳までに受験を完了する。英語、数学などの必修科目と、音楽、演劇、地理、歴史などの選択科目が設けられており、通常は8~10科目を受験する。インターナショナルGCSEは、GCSEに類似した資格で、海外の生徒の間で広く受験されている。
成績評価は、イングランドでは9~1の9段階評価である(2018年度よりすべての教科に適用)が、ウェールズおよび北アイルランドでは高い順からA*(Aスター)、A、B、C、D、E、F、G の8段階評価。
● GCE-AS/ Aレベル
( General Certificate of Education, Advanced Subsidiary Level / General Certificate of Education, Advanced Level)
大学の入学資格としてイギリスで最も広く認められている資格で、さまざまな分野から科目を選択することができる。2年間で3~4科目を専門的に学ぶ(成績評価はA* ~E)。学部の専攻学科によっては、受験科目を指定している大学もある。イングランド・ウェールズ・北アイルランドでは、Aレベルを受験した後、18歳で大学に入学し、通常3年間で学士号課程を修了する。
● Vocational-GCSE/ A レベル
(vocational GCSE / vocational advanced level)
広範囲な職業的知識を習得し、将来の就職や高等教育機関進学に必要な力を身につける目的で導入された資格。履修する科目の内容は職業に密着したものとなる。vocational GCSEは8科目を学んで受験する。vocational-Aレベルは大学入学資格としても認められる。
● IB(International Baccalaureate) Diploma
16〜18歳の学生を対象とした世界共通の国際資格。イギリスはもちろん、アメリカ、フランス、日本など、各国で大学への入学資格として採用されている。修学期間は2年で、カリキュラムは数学、科学、言語、芸術など主要科目をカバーしている。
大学での成績評価
イギリスの大学は、専門知識を深める場であり、通常、学部課程の1年目から専攻に踏み込んだ内容の教育が行われる。受け身ではなく、常に、自ら進んで講義やセミナーに参加し、探究精神を発揮する姿勢が必要とされる。当然授業には、事前に参考文献に当たるなどして、準備を整えてから臨まねばならず、セミナーなどで積極的な発言が見られなければ、「参加」していると見なされない。もちろん、ただ発言すればよいものではなく、発言内容に論理的な整合性が求められる。イギリスの大学の教育環境は、「入るのは難しいが、出るのは簡単」などとやゆされることの多い日本の大学とは大きく異なる。学生が一様によく勉強するのも、イギリスにおいては大学は入るだけでは意味がなく、よい成績で卒業して初めて評価されるためだ。学士号にも成績がつく。
学士号
イギリスの大学が授与する学士号には、「優等学位(honours degree)」と「普通学位(ordinary degree)」の2種類がある。優等学位は、普通学位に比べ、より専門的で水準の高い学位に位置づけられる。学生は一般に、優等学位の取得を目指す。入学案内書や大学のカタログなどに“BA(hons)History”と書かれていれば、これは、歴史学1分野を深く学んで得る学士号(Bachelor of Arts)を意味することになる。優等学位には、学業成績によってさらに、first、upper second、lower second、third、passの5段階評価が加えられる。大学院への進学に当たっては、upper second以上の成績を求められることが多い。
成り立ちから見た大学の評価
イギリスの大学の社会的評価はその大学の成り立ちに帰するところもある。ここでは、イギリスの大学の創立経緯について簡単に紹介しておく。
イギリス最古の大学は、University of Oxford。次いでUniversity of Cambridge。この2つの大学は、現在では特権階級出身者や名門私立学校出身者以外も入学可能となったが、かつては特定のバックグラウンドを持つ学生のみが学べる象牙の塔であった。
19世紀前半になると、特定の学生だけでなく一般の学生も受け入れる、開かれた大学としてUniversity of Londonが創設された。さらに19世紀後半になると、産業都市に多くの大学が創設された。これらは、civic universities と呼ばれ、カレッジ制を敷くUniversity of Oxford、University of Cambridge、University
of Londonとは異なり、広大な敷地内に学部ごとに校舎を建てたキャンパス型の大学という特徴を持っていた。The University of Manchester、The University of Liverpool などがその代表である。
また、1960年代には国の大学拡張計画とともにThe University of Warwickのようなcampus universities と呼ばれる大学が次々と新設された。先のcivic universities との違いは、同じキャンパス型でも、都市郊外に広大な土地を開拓した点にある。学生生活に必要な施設をすべてキャンパス内に造ったのである。
大学が拡張されたとはいえ1992年以前にはイギリス国内に大学は四十数校しかなかった。1992年にpolytechnic(技術・専門教育機関)の多くが大学に昇格し、大学数は約100校となった。このとき生まれた大学をnew universities と呼ぶことも多い。このような学校が増え、大学でも実践的な教育を行うことが急速に一般化した。
University of Oxford とUniversity of Cambridge は、「名門」の代名詞として、Oxbridge(オックスブリッジ)と、ひとくくりに語られることも多い。世界的に見ても両大学の存在感は飛び抜けて大きく、日本の留学希望者の間でもあこがれの留学先となっている。日本だけでなく各国の政府関係機関で働くエリートたちの多くがOxbridge出身者であることも事実である。両大学のステータスはいまだに世界で不動の位置にある。
一方、new universities には実務的スキルの教育での評価が高い学校が多い。留学を希望する大学の経緯などを知るには、創立年がひとつの目安となる。ただし、統廃合によってできた大学は歴史の古い学校の創立年を表記していることもあるので注意が必要である。
大学院について
イギリスの大学院で取得できる学位には、修士号と博士号がある。修士号は、コースワーク主体で得るtaught course と、その上のレベルにあたるリサーチワーク主体のものとに大きく分かれる。ともにプログラム開始当初から、専攻内容に踏み込んだ専門的な教育が行われるのが特徴だ。
コースワーク主体のプログラムは、taught master’s course やtaught master’s programmeなどと呼ばれ、通常、履修期間は1年。大学が決めたカリキュラムに沿って、クラスに出席し、エッセー課題などをこなしていき修士論文を書き上げる。一方、リサーチワーク主体のプログラムは、一般にresearch master’s programmeと呼ばれる。指導教官からチュートリアル(tutorial)という個別指導を受けながら、特定のテーマに関して研究論文を書く。このほか大学院レベルの資格として広く認知されているpostgraduate diploma も取得可能だ。履修期間は9~10カ月。コースの後の試験に合格すればdiplomaを取得できる。例えば修士号取得ではなく大学院レベルの教養を深めるために特定の分野を学びたい、仕
事上必要な専門知識を身につけたい、会計など専門の資格取得を目指したいなどさまざまなニーズに対応している。
博士号はPhDが主流で、通常10万語以上の研究論文を書き上げ、論文についての口頭試験に合格すると学位が得られる。修士論文との語数の違いは、そのまま修士課程と博士課程の学問レベルや研究の深さの違いを表したものといえる。
【Column】University of Oxford VS University of Cambridge
イギリスに初めてカレッジができたのは、今から約760年前のオックスフォード。修道僧が信徒に神学を教える場として創立された。英語圏最古の大学、University of Oxford はトップとして君臨し、University of Cambridge は、誕生した順番から常に「2番手」として存在していた。しかし、20世紀になりその座が逆転する出来事が起こった。両校では、その建学精神から言語学、法律、歴史に重点が置かれ、600年もの長い間、科学は正規の履修科目として認められてこなかった。しかし、University of Cambridge は、University of Oxfordよりも早い時期に科学に目を向け、19世紀にThe Cavendish Laboratory(キャベンディッシュ研究所)を設立したことで、世界中から研究者が集まる場となっ
たのである。
放射能研究でノーベル化学賞を受賞したアーネスト・ラザフォード博士も同研究所の奨学金を得て、ニュージーランドからケンブリッジにやって来た留学生のひとりだった。
この科学を取り入れた試みが効を奏し、20世紀に入るとUniversity of Cambridge は、次々とノーベル賞受賞者を生む。ノーベル賞受賞者数では、University of Oxfordをはるかに抜き第1位の座を占めている。創始者の精神を受け継ぐ革新派の面目躍如といったところだろうか。
複雑な学位制度
日本の大学では、学部課程を修了すると学士が取得でき、大学院では修士や博士の学位が取得できる。学士取得には4年間、修士には2年間、博士には3年間かかるのが普通である。しかし、イギリスではかなり事情が違う。
まず、大学の学部は専攻によって異なるが、おおむね3年間の課程である。学部レベルを修了すると、一般にfirst degree(第一学位)と呼ばれている学士学位(BA、BSc、BEdu、LLBなど)を取得できる。ただこの学士学位にはhonours degree(優等学位)とordinary degree(普通学位)があるのが、ほかの国と大きく違う。その優等学位にも1級・2級・3級などの区分けがあり、大学院に進む場合には、どの級であるかが入学判定の材料になることもあり、複雑である。しかし、こういった学位以外にも、イギリスの高等教育機関では、学業水準によってcertificate(サーティフィケート)やdiploma(ディプロマ:HNC、HND、DipHE)と呼ばれる資格を授与するところもあり、一筋縄ではいかない仕組みになってい
る。
大学院レベルでは一般にhigher degree(上級学位)と呼ばれる学位を取得する。通常、1~2年間の課程を経るとMA、MSc、MBA、LLMなどの修士学位を取得し、さらに博士学位でPhDを取得するのが一般的である。ただ、学業の水準によっては、PGCert、PGCE、PGDipなどに見られるサーティフィケートやディプロマを授与するところもあり、学位制度はイギリス人でも理解しにくいといわれているほどである。
また、ひと言にイギリスと言っても、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドでその教育制度が大きく異なっており、その違いにも注意を払わなければならない。例えば、優等学位は、イングランドでは3年間修了後に取得するが、スコットランドでは4年間修了後が普通である。また、スコットランドでは第一学位でMAと称することもあれば、BPhilやBLitt が修士学位相当であることもある。工学系では、高い能力を示した学生がさらに1年間の学業を終えると、その時点でMEngを取得できるなどのケースもある。ところが、オックスフォードおよびケンブリッジでは、MAはかなり形式的なもので、学士学位の取得後に一定年限を経過すると取得可能なことがある。
このように実にさまざまな名称の学位が存在するのがイギリスの特徴である。ただ、EUがエラスムス・ソクラテス計画などを通して、積極的にEU間の学生教職員の流動性を高めようとする動きがある中で、イギリスの学位制度も2003~2004年頃から改革の方向にあり、EUの推奨するdiploma supplementによる比較可能な学位制度の整備や、学部と大学院という2つの周期の整備が進行中である。
【Column】ブリティッシュ・カウンシル公式資格取得カウンセラー
~「イギリス留学のスペシャリスト」の証明
ブリティッシュ・カウンシルでは、教育機関、留学エージェントで活躍中の留学カウンセラーがイギリス留学に関する知識をより深められるよう、オンラインコースThe British Council Agent and Counsellor Training Suite を提供している。本プログラムを修了すると「ブリティッシュ・カウンシル公式資格取得カウンセラー」として修了書が授与される(資格の有効期間は2年間。ただし資格はあくまでも受講者本人に授与され、受講者のイギリス留学に関する知識を証明するものであり、留学エージェントの認定は行っていない)。
このコースの受講者は、Assistantレベル、Associateレベル、Certificateレベル、Advancedレベルの4つのレベルで構成される。Certificateレベルまで修了した受講者の名前・所属エージェント名は、ブリティッシュ・カウンシルのGlobal Agents List (GAL) (https://agent-training.britishcouncil.org/GAL)に掲載される。
当コースでは、イギリスの教育関する知識・経験を問わず幅広い受講者が、イギリス留学に関する最新の情報を学び、より専門性の高い知識と能力を獲得できる。講座がオンラインで提供されるので、スマートフォン、タブレット、パソコンなどの端末で、各人の状況に応じた受講が可能。
詳細情報:
https://agent-training.britishcouncil.org/